主張/医療事故調始まるも課題は山積
この10月から医療事故調査制度が始まった。「医療事故」により死亡、死産が発生した医療機関において院内調査を行い、その調査報告を民間の第三者機関(医療事故調査・支援センター)が収集・分析することで再発防止につなげ、医療の安全を確保する制度だ。医療法上、本制度の対象となる医療事故は、「医療事故(当該病院に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったものとして厚生労働省令で定めるもの)」とされており、当該医療機関の管理者は医療事故が発生した場合には遅滞なく、医療事故の日時、場所および状況などを医療事故調査・支援センターに報告しなければならない。
今後、全国の医療機関で死亡事例が発生すれば、これが医療事故なのか、事故の可能性が全くない不可避な死亡なのかの判断を管理者は迫られることになる。予期していなかったということが報告の条件なのですぐには判断できない場合も考えられる。また提供した医療行為と死亡の時期が離れている場合は、更に判断が難しい。報告すべきか迷う場合は支援団体に相談することになるが、グレーゾーンの事例は報告すべきとなるであろう。このことから、厚労省が予測する年間1200から2000件を当初は上回るかもしれない。ちなみに協会で2009年までに扱った死亡医療事故は大学病院を除いて40年間で400件で、年間平均10件であった。
医療安全は医療を受ける患者さんはもとより、医療従事者にとっても確保すべき課題である。
医療事故調査・支援センターは集積した事例を元に、再発防止策の普及啓発を行う。先ほど述べたように、死亡事例が発生した場合、本制度の該当事例か否かの判断が難しい場合が想定される。これによって医療現場が混乱するようなことがあってはならない。
集積事例から報告すべき事案が具体的に示されたならば、死亡事例に誠実に向き合う医療現場の負担も軽減され、この制度の本来の目的である医療安全にも資するものといえよう。