特別企画 竹中 温医師に聞く 今、病院医療の亀岡の現場では  PDF

特別企画 竹中 温医師に聞く 今、病院医療の亀岡の現場では

 
 地域紹介シリーズに関連して、亀岡シミズ病院院長の竹中医師に病院医療の現状、抱える課題など、病院からみる地域医療について話をお聞きした。
 

竹中 温 氏

1973年、京都府立医科大学を卒業。京都第二赤十字病院外科、京都府立医科大学第一外科、済生会京都府病院外科、国立福知山病院外科を経たのち、1981年以降、京都第二赤十字病院外科部長、京都第二赤十字病院副院長を歴任。2013年に医療法人清仁会亀岡シミズ病院副院長に就任し、2014年から院長を務めている。
 

限られた医療資源の中で試行錯誤の日々

 
——今回、地域紹介シリーズで亀岡市医師会さんの協力のもと、座談会を開催しました。その中で、南丹医療圏では小児科の救急医療は公的病院だけでほぼ100%カバーできていると聞きました。一方で、外科が非常に手薄ということでしたが。
 竹中 南丹医療圏の救急指定病院である3病院において、麻酔医の常勤がいるのは亀岡市立病院と公立南丹病院だけです。2病院の詳細はわかりませんが、私どもの病院(亀岡シミズ)は麻酔医が常時は不在(週2日のみ勤務)のため、脳外科・一般外科の常勤医師不足の影響も大きいですが、緊急手術に対応できないことが多いです。その影響で、救急隊の要請をやむなく断らざるを得ない状況が多々あります。また圏内には外科医はある程度の数おられると思いますが、脳外科の医師は極めて少なく、南丹医療圏内では当院に常勤医が1人いるだけと聞いています。脳疾患の場合は、京都市内の我々のグループへの搬送をお願いすることが多いです。脳疾患以外でも、地域住民からの要請にはなるべく応えたいと考えていますが、非常勤当直医師による専門外の疾患への不対応などの影響で、残念ながら救急隊にも、地域住民の方々にも十分に対応できてないのが現状と考えています。今後は少しでも状況の改善を図っていきたいですね。
——医療圏での対応が難しい部分を、医療圏を超えてカバーしているのが現状ということですね。
 竹中 本来は医療圏内の病院間で連携し、患者対応することが理想でしょう。しかし現状では、近隣の患者さんなので当院への再受診ということも考えて、できるだけグループ内病院間で対応できるようにと考えています。救急受入不能症例のうち、グループ病院への搬送は約50〜60%で、残る40%は公立南丹病院か亀岡市立病院に搬送されていると聞いています。
 他病院もそうだと思いますが、本来は地域住民に信頼される病院となるためにも、要請されたすべての患者さんを受け入れたいし、また医院からの紹介患者も受け入れ、開業医の先生方に患者さんを逆紹介できるような地域病診連携が必要であり、理想と考えています。今のところは、限られた医療資源の中で試行錯誤している状態です。
 
——産婦人科についても南丹医療圏では厳しいとお聞きしましたが。
 竹中 産婦人科のことはよくわかりませんが、公立南丹病院に産婦人科があり、中核を担っておられると思います。亀岡市立病院には産婦人科はなく、当院にももちろんありません。亀岡市内ではお産ができる産婦人科医院・クリニックが2軒あり、頑張っておられると聞いています。
 
——医療圏では医療資源が限られているということですが、病院間で連携が図られているものがありますでしょうか。
 竹中 当院、亀岡市立病院、公立南丹病院の当直医の情報を亀岡市医師会に提供し、同医師会がとりまとめて行政に提出しています。消防はその情報を元に当直医を確認し搬送先の判断材料としているようです。
 

「医療過疎」という現実

 
——亀岡シミズ病院に赴任されて2年4カ月とお聞きしましたが、亀岡という地域での医療について、先生が感じられることは。
 竹中 亀岡地域といっても、赴任して日も浅いので私どもの病院のことしかわかりません。当院には亀岡シミズ病院の前身である「あたご病院」時代から勤務している先生が数人おられます。時代も良かったのか、患者・医師の信頼関係もあり、救急疾患に対してもかなり精力的にやっておられたと聞いています。また、小さい病院の特徴かもしれませんが、従来から地域密着型の「かかりつけ医」的な病院としてもやってこられた経緯があります。患者さんが受診され、重症なため他院の専門医の受診を勧めても「先生にみてほしい」といわれる患者さんも多いようです。
 しかし現在は亀岡地域に限らず、全国的にみても、患者さんは大病院志向、専門医志向にあるのは間違いありません。また医師のほうも、専門外にもかかわらず診察し、インシデント・アクシデントが発生した場合には訴訟につながりかねないということを考え、どうしても萎縮診療(救急受入拒否)に向いてしまっているのではないかと思います。
 このように医師と患者の関係性が負の連鎖のように悪い方向へ変化する中、医療資源の限られている亀岡の、特に我々のような中小病院(急性期病床58床、障害者病床34床、療養病床85床の計177床)では、現時点では、患者さんへのよりよい医療の提供、特に救急医療においては、ある程度限界があるのではと感じています。
 
——京都府といっても京都市、府北部、中部、南部で地域医療に対する課題がそれぞれ違いますね。
 竹中 京都府北部、中部あるいは南部では公立病院が多い関係で、京都府立医科大学の支援など、万全とはいえないかもしれないですが、行政も含め医療提供体制の保障に尽力しています。そういった意味では亀岡地域は中抜けの状況になっており、京都市のすぐ隣にありながら亀岡市が医療過疎の状態になっているような気がします。亀岡市民のために地域医療の推進から考えて、もう少し何とかならないかと思いますね。
 

大病院志向の新専門医制度

 
——今回、専門医制度が新たに見直され、すでに2015年度から新基準で専門医更新を行う学会もあります。日本外科学会のホームページでは、日本専門医機構からのモデルプログラムの承認待ちだと報告があがっていました。また新制度においても認定・更新要件の大幅な変更はないと考えていることが合わせて報告されていますが。
 竹中 新専門医制度に関しては私も理解していない部分が多く、はっきりとはわかりませんが、新しい専門医は学会とは独立した中立的な第三者機関が専門医の認定、養成のプログラム評価を行うようです。外科専門医の認定にあたっては、5年間に350例の経験症例(うち120例は術者として)が必要なのは、今までの専門医認定とさほど変わらないと思います。また、領域(心・大血管、呼吸器、乳腺他)ごとで最低症例数の術者経験を要することも変わりはなく、新人医師の専門医の取得あるいは維持・更新に向けては、やはり症例数の多い大学あるいは大病院への志向が変わらず、医師の地域偏在は何ら解消されないのではと危惧しています。
 どこも頭を悩ませていることですが、地域病院の切実な問題として勤務医の確保が大変難しい。この新専門医制度が良い例ですが、勤務医としてのキャリアアップが望みにくくなると、一定の中堅医師が開業を選択しかねないことも事実です。さらに若手医師は地域に来てくれず、残るは老年の医師のみ。これではますます地域の病院は疲弊していきます。一定期間の地域病院勤務も専門医取得の必要条件に加えていただけないものでしょうか? 今後、新専門医制度がどのようになっていくのか見守っていきたいですね。
 
——専門医制度には基本領域に新たに総合診療専門医が設置されます。この間、総合診療専門医の研修カリキュラムが日本専門医機構から出ましたが、求められているものはほぼ現在の開業医が行っている医療です。なのに、なぜ総合診療専門医という新専門医を構想しているのか。それを明らかにしたいと協会では議論を重ねているところです。
 竹中 病院の総合診療内科は確かに必要です。また、国が構想している総合診療専門医が、地域医療に従事している開業医像に重点を置いているのは、現在の超高齢者社会、税・社会保障改革の一体化の下では当然の成り行きではと思います。
 しかしながら、短期間の専門医研修のみで全人的医療が行えるようになるとは到底思えません。開業医が否定されているのではなく、むしろ地域医療に根差した開業医の特性を生かそうとしているようにも思いますが、そこのところはよくわかりません。専門医の種類により不公平な診療報酬上のインセンティブが発生すれば、それは問題となるかもしれませんが。
 
——最後に、なにか先生からございますか。
 竹中 亀岡市は京都市のすぐ隣で、JR二条駅からは普通(各駅停車)列車でも18分と非常に近い町です。車でも京都市北区あたりから約1時間弱で来られる距離。実際私ども施設の常勤医の3人が北区、1人が修学院、2人が長岡京市、1人が桂から出勤していて、市内在住医師は1人という状況です。にもかかわらず、峠を越えるイメージからか、京都市内からずいぶん遠い、人里離れたところのように思われている方が多いようです。医師もなかなか来てくれません。亀岡は本当はそんなに遠いところではなく、歴史情緒あふれた、人情にあふれた、素晴らしいところだと声を大にしてお伝えしたい(笑)。
 急性期の第一線での勤務に少し疲れた先生は、ぜひ当院での勤務をお勧めします。定年までの期間も長く、余生をゆっくり過ごせることを請合います(笑)。
 
——本日は有難うございました。

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