人対象の研究倫理指針遵守の徹底を 安全性担保ない患者申出療養に反対  PDF

人対象の研究倫理指針遵守の徹底を 安全性担保ない患者申出療養に反対

 協会は、患者申出療養の本質は実験的医療であり、安全性の担保等がまったくないと指摘し、この制度創設に反対の姿勢で臨んできた。しかしながら、健康保険法改正法が成立し、中医協で患者申出療養の細目の議論が開始されたことから、第6回定例理事会で慎重審議を求める要望を採決。安倍首相、塩崎厚労相、田辺中医協会長、中医協委員あてに要望書を送付した。以下、全文を掲載する。

患者申出療養制度を議論するにあたっての要望

 去る5月27日患者申出療養新設が盛り込まれた健康保険法改正法が成立し、中医協でその細目の議論が開始されました。当協会はかねがねこの新たな保険外併用療養が、エビデンスの乏しい、または無い実験的医療である本質から、慎重審議を訴えてまいりました。その主旨は国会審議の場でも取り上げられ、附帯決議という形で法律に反映されました。このことの重みを充分受け止めた今後の中医協での議論をお願い申し上げます。

 中でも我々は、患者申出療養の実施医療施設認可とそれを審査する上級機関(「患者申出療養に関する会議」・臨床研究中核病院等)の厳正性・公正性・透明性が担保され、実際の治療内容の審査・認定においては附帯決議で謳われた「人を対象とした医学的研究に関する倫理指針(以下倫理指針)」遵守を徹底することを強く要望するものです。

 治療内容認可は保険収載を目指すものに限定するとされています。当然の要件ですが、その際個々の症例の個別承認となるため、研究計画書の適格性検討が極めて重要になります。例えば治験対象外患者への未承認抗癌剤投与とは、治験の要件を満たさない高齢者・若年者やハイリスク患者へも抗癌剤を拡大投与する危険性を伴う“治験”です。このような患者は途中減量や中断の可能性が高く、その場合その症例が脱落例扱いまたは報告例数から削除される恐れがあり、エビデンスの蓄積に関与できません。このような保険収載に結びつかない可能性の高い治療計画は承認しない取り扱いを明記すべきと要望します。

 また 「患者申出療養として初めての医療」を保険収載のエビデンスにするには症例数集め等々に多大な困難が予想されますが、それ斟酌してもなお患者申出を起点とする原則に則った上で、恣意性を排した先進医療Bと同等の厳正な承認審査基準を要件とし、要件を満たさない申請は却下すべき取り扱い規定の明記を要望します。

 さらに、患者申出療養の承認には研究計画書以外にも「倫理指針」に則ったインフォームドコンセント(またはアセント)の実施、男女両性・外部委員を入れた倫理委員会による審査、治療結果の遅滞なき公表等々が要件となります。これら「倫理指針」の全項目を満たし実行可能な実施医療施設は限定されると思われますが、なおその個々の承認には書面審査のみに頼らない、実態の正確な調査・把握の上での審査を行う規定とすべきです。また承認・施行後の監視・勧告・取下げを可能にする仕組みも必須であると要望します。

 我々は、国民の医療要求に応える様々な新しい治療法の有効性を検証し、安全性を担保しながら保険収載に導く道は治験や先進医療A・Bが本筋と主張してきました。普遍性に乏しい“私的”治療法等の医療的行為に公費と高額の患者自己負担が注がれ続けることは、国民医療保険制度の根幹を破壊するものと危惧し、反対します。さらに患者申出が起点という理由で患者の安全性や万が一の有害事象発生時の十分な対応・保障が担保されない状況下では患者申出療養は認めるべきではないと主張していることを申し添えます。

 7月28日
第6回定例理事会

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