10月から始まる医療事故調査制度 病院・診療所全医療機関が対象  PDF

10月から始まる医療事故調査制度 病院・診療所全医療機関が対象

 
 10月から医療事故調査制度が始まる。従来から本紙で報道してきたが、実施を目前に控え、改めて医療機関側から見た全体像をまとめてみる。新制度の目的は、予期せぬ死亡事故が発生した場合、当該医療機関での院内調査を経て、原因を究明し、医療安全の確保・再発防止を図ることで、個人責任を追及するためのものではないとされている。厚生労働省は5月8日、省令を公布するとともに通知を発出した。通知等から時系列に沿って新制度の概要を述べると、「医療に起因する」「予期せぬ死亡事故」が発生した場合、管理者は、まず「医療事故調査・支援センター」に報告する。次に、院内事故調査委員会を立ち上げ、調査結果を「医療事故調査・支援センター」に報告するとともに遺族に分かりやすく説明する。「医療事故調査・支援センター」への再調査依頼は、遺族、管理者の双方から行える。センターでは改めて調査を行い、その結果を遺族と当該医療機関に報告する。以下にもう少し詳しく概説する。
 
 
1 事故の定義—「医療に起因する(疑いを含む)」死亡または死産/判断は管理者
 手術、処置、投薬およびそれに準じる医療行為(検査、医療機器の使用、医療上の管理など)に起因し、または起因すると疑われる死亡事故が対象となる。施設管理等の医療に含まれない単なる管理は制度の対象とならない。医療機関の管理者が判断する。過誤の有無は問わない。
 死産については「医療に起因し、または起因すると疑われる、妊娠中または分娩中の手術、処置、投薬およびそれに準じる医療行為により発生した死産であって、当該管理者が当該死産を予期しなかったもの」を管理者が判断する。人口動態統計の分類における「人工死産」は対象としない。
 
2 事故判断プロセス—迷ったらセンターまたは支援団体に相談
 管理者が判断するにあたり、当該事故に関わった医療従事者等から十分事情を聴取した上で、組織として判断する。管理者判断の支援として、医療事故調査・支援センターおよび支援団体は相談に応じられる体制を設ける。管理者から相談を受けたセンターまたは支援団体は、記録を残す際等、秘匿性を胆保する。
 
3 医療機関からセンターへの事故状況の報告は遅滞なく
 管理者は、医療事故が発生した場合、遅滞なく、日時、場所、診療科および状況などを書面か、Web上のシステムのうち、適切な方法で報告する。
 その他の報告事項は、連絡先、医療機関名、所在地、管理者氏名、患者の性別・年齢等情報、疾患名、臨床経過等、報告時点で把握している範囲、調査により変わることがあることが前提であり、その時点で不明な事項については不明と記載する。調査計画と今後の予定、その他管理者が必要と認めた情報。
 センターへの報告期限は、個別の事案や事情等により、医療事故の判断に要する時間が異なることから具体的な期限は設けない。なお「遅滞なく」とは、正当な理由なく漫然と遅延することは認められないという趣旨で、事例ごとにできる限り速やかに報告することが求められる。
 
4 「遺族」の範囲—特に定めず/遺族側で代表者を選定
 「遺族」の範囲については、死体解剖保存法など法令で定めないこととしている他法令の例にならう。遺族側で代表を定めてもらい、遺族への説明等の手続はその代表者に対して行う。なお「死産した胎児」の遺族については、当該医療事故により死産した胎児の父母、祖父母とする。
 
5 遺族への説明事項—解剖・Aiでは同意が必要
 遺族へは、「センターの報告事項」の内容をわかりやすく説明する。遺族への説明事項は次のとおり。
(1)事故の日時、場所、状況
 日時/場所/診療科
 医療事故の状況▽疾患名▽臨床経過等▽報告時点で把握している範囲▽調査により変わることがあることが前提であり、その時点で不明な事項については不明と説明する。
(2)制度の概要
(3)院内事故調査の実施計画
(4)解剖または死亡時画像診断(Ai)が必要な場合の解剖または死亡時画像診断(Ai)の具体的実施内容などの同意取得のための事項
(5)血液等の検体保存が必要な場合の説明
 
6 院内調査の方法等—匿名性の確保に配慮
 管理者は、速やかに事故原因を明らかにするために必要な調査を行わなければならない。調査過程において可能な限り匿名性の確保に配慮する。
 調査は▽カルテその他の診療に関する記録—画像、検査結果等の確認▽当該医療従事者やその他の関係者(遺族からのヒアリングが必要な場合があることも考慮する)からのヒアリング—ヒアリング結果は内部資料として扱い開示しない(法的強制力がある場合を除く)こととし、その旨をヒアリング対象者に伝える▽解剖やAiは、実施前にどの程度死亡の原因を医学的に判断できているか、遺族の同意の有無、解剖やAiの実施に得られると見込まれる情報の重要性などを考慮して実施の有無を判断する▽医薬品、医療機器、設備等の確認▽血液、尿等の検体の分析・保存の必要性を考慮—に関する事項について必要な範囲内で選択し、情報の収集および整理を行う。調査対象から当該医療従事者は除外しない。
 事故調査は原因を明らかにするために行うものであるから、原因も結果も明確な、誤薬等の単純な事例でも、調査項目を省略せずに丁寧な調査を行うことが重要である。
 調査の結果、必ずしも原因が明らかになるとは限らないこと、再発防止は可能な限り調査の中で検討することが望ましいが、必ずしも再発防止策が得られるとは限らないことに留意する。
 
7 単独での調査が困難な場合—支援団体がサポート
 医療事故に対応する体制や設備がなく、単独で調査を行うことが困難な医療機関では、医療機関の判断により、必要な支援を支援団体に求める。解剖・Aiについては、専用の施設・医師の確保のサポートが必要である。
 
8 医療機関からセンターへ調査結果を報告
 管理者は、事故調査終了時には、遅滞なく、事故の日時、場所、診療科、医療機関名、所在地、連絡先、医療機関の管理者氏名、患者の性別・年齢等の情報、医療事故調査の項目、手法および結果を書面か、Web上のシステムのいずれかの方法でセンターに報告を行う。
 本制度の目的は医療安全の確保であり、個人の責任を追及するためのものではないことを、報告書冒頭に記載する。
 センターへは上記の他、次の事項を報告する。
 ▽調査の概要(調査項目、調査の手法)▽臨床経過(客観的事実の経過)▽原因を明らかにするための調査の結果(必ずしも原因が明らかになるとは限らないことに留意する)▽調査において再発防止策の検討を行った場合、管理者が講ずる再発防止策については記載する▽当該医療従事者や遺族が報告書の内容について意見がある場合等は、その旨を記載する。
 医療上の有害事象に関する次の報告制度についても留意する。㈰医薬品・医療機器等安全性情報制度㈪予防接種法に基づく副反応報告制度㈫医療事故情報収集等事業㈬薬局ヒヤリハット事例収集・分析事業㈭消費者安全調査委員会への申し出—。
 当該医療従事者等の関係者について匿名化する。医療機関が報告する医療事故調査の結果に院内調査の内部資料は含まない。
 
9 医療機関が行った調査結果の遺族への説明
 管理者は、センターに調査結果を報告するにあたって、あらかじめ、遺族に対し、センターへの報告内容を説明する。現場医療者など関係者について匿名化する。遺族がないとき、または遺族の所在が不明であるのときは、この限りでない。
 遺族への説明方法については、口頭(説明内容をカルテに記載)または書面(報告書または説明用の資料)もしくはその双方により行う。調査の目的・結果について、遺族が希望する方法で説明するように努めなければならない。
 報告書の交付は義務ではない。しかし、いずれの方法によるかは管理者に委ねられた。
 
10 センター調査の依頼は管理者または遺族
 管理者または遺族は、医療機関の管理者がセンターに報告した事案について、センターに対して調査を依頼することができる。
 センターは調査について、当該管理者に対し、文書もしくは口頭による説明を求め、または資料の提出その他必要な協力を求めることができる。管理者はこれを拒んではならない。管理者がセンターの求めを拒んだとき、センターはその旨を公表することができる。
 院内調査終了後にセンターが調査する場合は、院内調査の検証が中心となる。院内調査終了前にセンターが調査する場合は、院内調査の進捗状況等を確認するなど、医療機関と連携し、早期に院内調査の結果が得られることが見込まれる場合には、院内調査結果を受けて検証を行う。
 センター調査(・検証)は、「6 院内調査の方法等」で示した項目について行う。その際、当該病院等の状況を考慮して行う。
 
11 センターが行った調査の医療機関と遺族への報告
 センターは調査終了時に調査結果を管理者と遺族に報告しなければならず、調査結果報告書を、管理者と遺族に対して交付する。
 調査の結果、必ずしも原因が明らかになるとは限らないことに留意すること。
 原因分析は客観的な事実から構造的な原因を分析するものであり、個人の責任追及を行うではないことに留意すること。
 再発防止策は、個人の責任追及とならないように注意し、当該医療機関の状況および管理者の意見を踏まえた上で記載すること。
 センターが報告する調査結果に院内調査結果報告書等の内部資料は含まない。
 
12 センター調査結果報告書の取扱い
 本制度の目的は医療安全の確保であり、個人の責任を追及するためのものではないため、センターは個別の調査報告書およびセンター調査の内部資料については、法的義務のない開示請求に応じないこと。
 証拠制限などは省令が法律を超えることは出はず、立法論の話である。

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