社保研レポート
第656回(5/23) よくみられる脳と心の問題について 精神科リエゾン専門医からのアドバイス
講師:公益社団法人京都民医連中央病院 診療部精神神経科科長 安東 一郎 氏
せん妄・BPSD(認知症の精神症状)・うつ対応と処方のコツ
副題にある通り、講師は精神科リエゾン専門医である。精神科リエゾン専門医とは何であろうか。1970年代より、総合病院で身体疾患に併存する精神症状に対する対応として、一般科の患者についての“精神医学的助言”を行うリエゾン精神医学が登場する。リエゾンとは元は消防検査官(火災予防や定期検査)を意味し、その役割から“橋渡し”を意味する。精神科リエゾン専門医の業務は?対人関係の調整をする?専門家に引き継ぐ?リエゾンチームの一員としての精神科医―である。
精神科リエゾン専門医は、身体疾患に伴い生じる「脳」と「こころ」の問題に対応するスペシャリストであり、最も多く遭遇する疾患は「せん妄」である。「一般病院の医療現場で最も苦労する精神症状である『せん妄』に適切に対応することで、医療安全(さまざまなリスクの軽減など)や医療経済(在院日数の短縮など)にも貢献できる」(日本総合病院精神医学会ホームページ)とある。
せん妄は一般病棟入院患者の15〜18%程度、高齢者・70歳以上の入院患者では23〜25%に発生する。身体疾患の進行、全身状態悪化で頻度が増加し、終末期の死亡前1カ月30〜80%に認めるということで、非常に高頻度となる。せん妄の診断にはスクリーニングツールとしてDST(Delirium Screening Tool)が参考になる。対応のコツとしては「多要因を、3つの因子に分けて評価」 (Lipowsky)する。?準備因子…「脳血管障害慢性期」、「アルツハイマー病」などの中枢神経系の脆弱性要因?誘発因子…睡眠・覚醒リズム障害を通して意識変容を誘発しうる外的要因?直接因子…単一でも意識障害をきたしうる要因 の三つである。治療の基本は第一に、“直接原因”を明らかにし、その器質的原因に対する治療、第二に、“誘発因子”に対する働きかけ、第三に、“治療妨害要因”のコントロールを行う。また、誘発因子、治療妨害要因に対する、看護・ケア面での治療的介入は、せん妄予防や予後改善の可能性をもつ。
「せん妄」と「認知症のBPSD(精神症状)」の鑑別は困難なことが多い。それは「症状プロフィール」と「病因」が重なるからである。また、両者はしばしば、併存する。しかし、せん妄であることを確認し、その原因を治療すると、BPSDが大いに改善する。
話は“BPSD〜うつ”対応のコツに続いていく。要約すれば、「BPSDは治療可能であり一般的に認知症の他の症状・症候に比べて治療によく反応する」「BPSD治療の基本は適切なケアである」。しかし、「BPSDが、重度で、患者や周囲に危害がおよぶ場合、薬物療法を考慮する」「老年期うつは、認知症発症のリスク・ファクターであるため、早期発見・早期治療が必要である」とのことであった。
以上が大まかな概要である。ケース検討や薬物治療の症状や原因に則した解説など、実際の内容はより具体的なものとなっており、当日ご参加いただけなかった先生は是非保険医専用サイトの配信動画(URLは1面欄外参照)をご覧いただきたい。当日資料もPDFでダウンロードいただける。