医師が選んだ医事紛争事例(21)
ホットパックによる低温熱傷
(30歳代後半女性)
〈事故の概要と経過〉
痔瘻根治術目的で入院。同日に腰椎麻酔下で根治術を施行した。手術時間は20分で特に問題なく終了した。帰室後に患者が足下が寒いと訴えたため、看護師がホットパックを使用し、30分後に位置変更した。ところが7時間後に麻酔が切れ両下肢の傷みを訴えたため、確認したところ両足底部に低温熱傷が発生していることが判明した。患者には直ちに謝罪をして氷枕で対応するとともにロクフェナミンを内服した。翌日リンデロンVG軟膏塗布、ハイドロサイトにて被覆。両足底低温熱傷㈼〜㈽度と診断された。患者はその後退院した。
患者側は、額は明確ではないがアルバイトに行けなくなった休業補償等、賠償請求してきた。
医療機関側としては、低温熱傷はホットパックが原因であり、腰椎麻酔を施行した患者にホットパックを使用することは原則禁止としている。看護師はその旨理解していたが、患者のためを思い少しぬるめのホットパックを使用したが、その判断は誤りであったとして全面的に過誤を認めた。なお、ホットパック使用開始から低温熱傷発覚まで、医師や看護師が複数回患者の様子を見に来室していたが、両足底部の確認を怠っていた。
紛争発生から解決まで約11カ月間要した。
〈問題点〉
医療機関側の主張通り、腰椎麻酔を施行した患者は痛覚・運動が麻痺しており、低温熱傷を予見できたので、患者が寒いと訴えたとしても使用すべきではなかった。また、ホットパック使用開始30分後に看護師が位置交換をしているが、この時点で接触することになり、低温熱傷となった可能性が高いと推測された。かつては湯たんぽがよく使用されていて、同様の事故が発生していたが、湯たんぽを使用する医療機関が減少してくるとともに、低温熱傷の事故は減少していた。今後はホットパックの使用法が要注意である。
〈解決方法〉
医療機関側が全面的に過誤を認め、賠償金を支払い示談した。