2014年度地区懇談会アンケート 消費税損税解消についての会員意見調査
2015年度税制改正大綱において、消費税率10%への引き上げは17年4月1日と明記された。それに先立ち、日本医師会が14年9月に医療界の要望として「消費税に関する税制改正要望」2点を発表している。医療機関における消費税損税解消は喫緊の課題となっている。しかし、損税を解消するためには経理上の事務負担が発生する可能性を孕んでいる。また、財務省は税収の減少を回避するために、税制としては本来別である事業税の非課税措置や租税特別措置法26条(4段階の概算経費率による経費計算)の見直し、診療報酬に上乗せした消費税分の引きはがしなどに言及している。これらの問題について、会員の認知度および意見を聞いた。
<『消費税に関する税制改正要望』:日本医師会>
1.社会保険診療等に対する消費税について、消費税率10%時に環境を整備し、速やかに、現行制度から軽減税率等による課税取引に転換する事等により、医療機関等の消費税負担をめぐる問題の抜本解決を図ること。
2.上記1を平成27年度税制改正大綱に明記するとともに、消費税率を10%へ引上げる際には、医療機関等の設備投資等に係る消費税について、非課税還付等のあらゆる方策を検討し、仕入税額の還付措置を導入すること。
ゼロ税率「知っている」は約半数
ゼロ税率を「知っている」は55.7%、軽減税率を「知っている」は56.8%、非課税還付を「知っている」は44%。軽減税率の認知度がゼロ税率より上回っている。
ゼロ税率とは医療は非課税のまま、税率を実務上0%とみなして医療機関が負担した消費税を仕入れ税額控除の対象とすることである。そうすれば医療機関は損税となる払い過ぎた消費税の還付請求ができ、患者に消費税を負担させることがない。医療機関と患者にとって最良の策である。(図1)
損税が解消される場合、仕入れ時に支払った消費税額の計算が必要になる等、消費税申告のための事務負担が発生することの認知度を聞いた。「知っている」は43.2%、「知らない」は53.8%。半数が知らないと回答。(図2)
税理士対応ない医療機関のための簡易申告が必要
損税が解消される場合、仕入れ時に支払った消費税額の計算が必要になる等の消費税申告のための事務負担が発生する際の対応について聞いた。「顧問税理士がいるので対応できる」が82.8%、「顧問税理士はいないが会計ソフト等を使って自分で対応できる」が2.6%、「顧問税理士がいないため対応できない」が7.3%。8割以上の会員は顧問税理士がいるので対応できるとなっている。しかし一方で、1割近くの会員は顧問税理士がいないため対応できないと回答している。これらの会員も救済されるような簡易な申告による損税の解消が望まれる。(図3)
なお、その他の意見として「わからない」が3件あった。
診療報酬補填分引きはがしは半数以上が「おかしい」
損税が解消される場合、過去に上乗せされた診療報酬補填分が引きはがされることについて、意見を聞いた。「損税が解消されるなら当然」は8.1%、「損税が解消されるなら仕方がない」は22.7%、「過去の補填分は診療報酬改定で曖昧になっているのに引きはがしはおかしい」が58.2%。半数以上が引きはがしはおかしいという意見となった。しかし、「当然」「仕方ない」を合わせた3割以上が、消極的ではあるが容認している。(図4)
なお、その他の意見として「わからない」が11件あった。
措置法26条見直しは52%が容認
また、損税が解消される場合、仕入れ時に支払った消費税額の計算等、経費の計算ができることになる。その際の概算経費率を使う租税特別措置法26条(4段階税制)のあり方の見直しについて聞いた。「見直しは当然」が10.6%、「見直しは仕方がない」が41.4%、「見直しは困る」が23.4%。「当然」「仕方がない」を合わせて、半数以上が容認している。先述にもあるとおり、顧問税理士のいる会員が多く、申告事務を税理士に依頼しているため、自身で概算経費率を使って経費計算する会員の減少を反映していることがうかがえる。(図5)
損税を解消するために、医療を課税にすれば非営利性が否定され、事業税非課税措置を見直すと財務省が言及していることについて聞いた。「見直しは当然」は7.7%、「仕方がない」は25.3%、「見直しは困る」は47.3%、「その他」は15.0%であった。なお、わからないという回答が31件あった。(図6)
医療の非営利性は患者・医療機関双方にとって守られなければならない。
窓口での消費税徴収5割が容認も受診行動への影響必至
軽減税率が導入されれば、窓口で消費税を徴収することについて聞いた。「患者さんから消費税を徴収するのは当然」が20.9%、「仕方がない」が33.7%、「徴収できない」は30.0%。「当然」「仕方がない」を合わせると5割以上が窓口で消費税を徴収することを容認している。(図7)
軽減税率の場合、徴収する消費税額は自己負担分に税率を掛けた額で済むとは考えにくい。患者さんは、医療の最終消費者として、受けた医療給付全額に消費税率を掛けた税金を、窓口で支払うことになるのではないかと思われる。2割や3割の自己負担分に加えて、医療費全額に対する消費税額を支払うとなると、今でも十分に高い自己負担分に、さらに税金が加算される。患者の受診行動に影響が出ることは、必至と思われる。
損税解消策では「ゼロ税率」を支持
会員にとって最善の消費税損税解消策を聞いた。「ゼロ税率」は46.5%、「軽減税率」は13.2%、「非課税還付」は18.7%、「その他」は16.1%であった。もっとも多い回答はゼロ税率であるが、その他としての意見は「わからない」が20件あった。(図8)
以下、いただいた意見を抜粋する。
▽消費税そのものが矛盾の多いものだと思います▽そもそも消費税には反対。上げるのはもってのほか。所得税を上げればよい。そもそも国民の医療費負担が大きすぎる▽医療費には消費税をかけないという決まりを改正し、国民の理解を得る必要がいるのではないでしょうか▽生活必需品を非課税にして、税率を上げるのは賛成▽患者負担の是非を根本的に議論すべき。医療制度について根本的なあり方論なく、小手先の議論で医療費削減案とその反対案を講じている現状に不満▽医療を営利企業とみなすことになるのには違和感を感じる。
税率引き上げ中止とゼロ税率適用を求めて
消費税損税の問題は、医療界にとって大きな問題である。しかし、現状、開業医の中では税金に関することは税理士任せになっているせいか、認知度および関心が低い状況のようである。
患者さんの命と健康を守る医師として、また納税者として税制の問題に関心を持っていただけるよう、協会も情報提供をしていく必要がある。
2017年4月の消費税率10%引上げに向けて、協会は税率引き上げの中止と医療へのゼロ税率適用を求めて引き続き運動を進めるので、会員諸氏にも是非ご理解とご協力をお願いしたい。
実施時期=2014年10月〜15年4月、調査対象数=会員2,286人、回答数=273人、回収率=11.9%