新年度にあたって
医療制度の大転換に危機感 実態明らかにし広く議論を
理事長 垣田 さち子
「安全保障関連法案」が衆議院に提案され審議が始まった。悲惨な敗戦の教訓から、二度と戦争をしない国を作ることを目標にしてこの70年を生きてきたのに、その基本姿勢の大転換が提案されている。
医療分野においても、昨年成立した医療・介護総合確保推進法(地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律)に続き、医療保険制度改革関連法案がほとんど審議もなされないままに成立した。
2018年度から国民健康保険の財政運営が都道府県に移され、京都においては、府が医療費適正化の名の下に医療給付の総枠規制に乗り出す役目を担わされることになる。必要な医療は、公的責任として国家がきちんと保障すべきという我々の基本的主張が、自己責任論に置き換えられて否定されかねない状況が生まれている。
改正案には看過できない諸改悪が多々あるが、特に「患者申出療養」は混合診療の本格拡大に他ならず、皆保険制度の崩壊につながりかねない危険なもので、実施には反対である。
最近、群馬大学付属病院の腹腔鏡手術事件がマスコミを賑わせたが、これは我々が指摘する混合診療のいくつもの問題を先取りした分かりやすい実例である。
また、生体肝移植で問題になった神戸国際フロンティアメディカルセンターのある神戸医療産業都市は、医療ツーリズムの代表例であり、アベノミクス第3の矢として喧伝されている医療分野の「新たな市場の創出」策の危うさが露呈された事例である。医療の産業化「医療でもうける」という発想が、いかに人々の命を危険な儲けに誘導しかねない無責任な策であるかを明らかにしている。
財務省主導の社会保障費削減策が議論される中で、今年度の介護保険マイナス改定に続いて、来年に予定されている診療報酬改定の動向に危機感を覚える。近年の医療費抑制路線で医療現場には疲労感が増しているのに、さらにマイナス改定が重ねられることは、絶対に容認できない。
世界が認める日本の医療制度の優秀さは、国民皆保険制度とそれを支える従事者の献身的な働きによって維持されてきた。特に、公的保険制度でありながら、自己責任で開業し経営努力を重ねてきた保険医療を担う地域の開業医の状況は、厳しさを増している。
安倍政権が進める社会保障分野大改革の実態、日本の医療制度の大転換が国の将来に何をもたらすかを国民に明らかにし、広く議論を求めていきたい。