医師が選んだ医事紛争事例(19)
今でも稀に見られるMRSA感染によるトラブル
(80歳代前半女性)
〈事故の概要と経過〉
脳内出血でA医療機関に入院。その後1年半の間、A医療機関で入退院を繰り返し、後遺症としててんかん発作があった。病状が改善したので特別養護老人ホームに入所したが、2週間後に38℃の発熱が生じ、B医療機関に緊急入院となった。MRSAの検査結果は陽性であった。肺炎とてんかん発作により意識混濁状態で、食事摂取不能となり経管栄養管理を行い胃瘻造設となった。
患者側からは、特別養護老人ホームにおいてMRSAに感染し、緊急入院せざるを得ない状態になったことは嘱託医の判断の遅れによるものであり、また施設職員による抗てんかん剤の服用確認を怠ったとして、患者の精神損害は300万円を下らないと主張し、後に弁護士を通じ損害賠償を求めてきた。
嘱託医師は、患者に関して治療は適切に行っていた。MRSAは常在菌であり、特別養護老人ホームの入所者に保菌者がいても当然のことである。また、患者側は肺炎がMRSAに起因するものであると断定しているが疑問の余地がある。特別養護老人ホームでのMRSA感染については、「日医雑誌2002・2・1第127巻第3号の特集—院内感染対策をめぐって—」にあるように、手術後の患者等についてMRSA感染を起こさないように処置すべきであって、普通の患者にとって特に不都合なことはなく、拡がって危険になるわけでもないと考え、管理ミス等の過誤があったとは判断しなかった。
紛争発生から解決まで約6年3カ月間要した。
〈問題点〉
嘱託医師が指摘するように、発熱のあった翌日には、抗菌剤の投与を行うなど、一般的な治療は行われている。また血液検査においても肺炎を疑うことは難しく、判断ミスがあったとは言えない。MRSAに関わるトラブルは、2000年代前半から急激に減少してきたが、現在でも注意しなければならないことに違いはない。
〈顛末〉
患者側からのクレームが途絶えて久しくなったので、立ち消え解決とみなされた。