医師が選んだ医事紛争事例(18)
レーザー光線でしみを発症
(40歳代後半女性)
〈事故の概要と経過〉
顔面肝斑の治療のため初診。著明な色素沈着体質であることを説明の上、しみ取りクリーム、SOD(活性酸素分解酵素)を投与した。その1週間後に左頬部に2cm×2cm大のレーザー光線照射テストを施行した。患者は右頬も希望したため、約3cm×5cm大にてレーザー照射した。その際に、これまでのところは、他の患者で成功している例もあり、また、照射による皮膚反応も時間の経過とともに消退する可能性もあり、施行できないことはないが、本人にとっての治療効果と副作用の程度を確実に知るために、左頬のテスト結果を待つように説得したが、患者は構わないので施行してほしいと要望した経緯があった。
左頬・右頬とも合計3回施行した。通常テスト結果が出るまでに約6カ月は必要であるにもかかわらず、患者は弁護士を通じて、間もなく通知書を送ってきた。
主な内容は予想外にしみが強く、この様な結果になるのならば、レーザー治療は受けなかったとのことであった。更に医療費自己負担分と慰謝料を請求してきた。
医療機関側としては、いまだ、レーザーテストの結果が出ていない時期から、クレームを付けられても対処の方法がなく、照射部の皮膚炎症反応、肝斑の色調やその後の変色は時間の経過とともに消失していく可能性が高いと判断した。更にレーザーテストのリスクも十分に説明している。したがって、医療過誤は認められないと主張した。また、今回のケースは文献から見て美容外科的処置ではなく、皮膚病変に対する形成外科的あるいは皮膚科的な治療の領域と考えているとのことであった。
紛争発生から解決まで約10年10カ月間要した。
〈問題点〉
医療機関側の主張の通り、患者がクレームを付けるには時期尚早と考えられた。クレームを付けて以来、患者は来院しなくなったが、治療を中断することは患者自身にとって良いことはない。
左頬のレーザーテストに関しては問題ないが、右頬のレーザー照射に関して、適応の有無が問われる可能性があった。しかしながら、そのリスクは患者に十分説明しており、患者の希望通りに施行したことについて、過誤あるいは判断ミスと言われる理由はないと判断された。
〈顛末〉
患者側からのクレームが途絶えて久しくなったので、立ち消え解決とみなされた。