解説 地域包括ケアシステム構築と自治体政策 溝を見極め埋める作業が必要
安倍政権のすすめる社会保障制度改革は「社会保障制度改革プログラム法」(2013年12月)に基づき、既定路線を突き進む。とりわけ14年6月成立の医療・介護総合確保推進法に基づく医療・介護サービス提供体制改革をめぐる政府文書には「地域包括ケアシステム」なる文言が頻出する。協会は2010年の三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる「地域包括ケア研究会報告書」以来、国の医療政策がこの文言を中心に置いて大きく転換することを注視、警鐘を鳴らし続けてきた。研究会報告書に記された「紙上の構想」は、現実の政策に落とし込まれ、政策は住民生活に落とし込まれる。
地域包括ケアシステムは「団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される」ものと定義される。それ自体に異議を挟む余地はないかもしれない。しかし、なぜ国が地域包括ケアシステム構築を国策化し、ことあるごとに強調するのか。現実の地域社会において、高齢者の在宅生活を支えるため、自治体や地域住民、専門職が知恵をしぼり、汗をかきながら必死で努力してつくりあげようとしているのが、「私たちの目指す地域包括ケアシステム」である。これに対し、国はまるで違う位相で考えているのである。
今、その溝を見極め埋める作業が必要になっている。
国の地域包括ケアシステム構築の意図は、川上・川下改革における医療提供体制改革の受け皿であり、可能な限り公的な関与を排し、自助・互助を「社会資源」に位置付けることにある。そのため、川上での入院医療改革によって病床機能分化を進め、効率的な医療提供体制を構築することで、ある程度医療が必要な状態にある患者さんを在宅へ返す。在宅の受け皿は介護保険サービスを中心に構成されるため、介護サービスの守備範囲は自ずと「中重度」以上の対象者へ傾注することになる。この4月に実施となる介護報酬改定も、それを露骨に示すものの一つであろう。また裏腹に、医療・介護総合確保推進法による改正介護保険法は「要支援」と判定された人たちの「(予防)訪問・通所介護」について、保険給付ではない地域支援事業に新設する「新しい総合事業」に移行させるのである。要介護認定の判断を以て、サービスの必要性の有無を判断するシステムが一方的に変更され、「軽度」と判定された人々のサービスを給付から除外するのである。その背景には中重度を受け止めなければならなくなった介護保険財政の更なる悪化を未然に最小限に止めようとする意図があると考えるべきだろう。
加えて、改正介護保険法が目指すのは、医療が必要な人たちを地域で受け止めるための体制づくりとして「医療・介護連携」を進めること。そこで、地区医師会に様々な役割を担わせることである。「医療・介護連携拠点事業」は、11年度以降、厚労省によるモデルケースづくりが事業化されてきたが、今改正で全市町村での実施が法定化された。18年4月には、全市町村で介護保険法上の地域支援事業の包括的支援事業の一つとして、「医療介護連携拠点事業」がスタートすることになっている。
すでに、京都府内の市町村においてもこれら「川下改革」に向けた準備が始まっているのである。