医師が選んだ医事紛争事例(15)  PDF

医師が選んだ医事紛争事例(15)

診療に非協力的だった患者が実は膵臓がん!

(50歳代後半女性)
〈事故の概要と経過〉
 体調不良が継続しているとして初診。医療機関では慢性胃炎を疑い、1週間の内服を処方。腹部触診では腫瘤触知をしなかった。再診時に血便があるとの患者の訴えがあったが、便潜血検査は陰性で、CEAも正常値であった。その後の診察時に胃部不快を訴えたのでエコー、胃カメラ等の説明をして胃カメラのみ同意を得たので施行した。検査ではびらんを認めたが、その他の異常はなかった。患者が回復に向かわないことに不信感を抱いたので、再度エコー、腹部CT等を勧めたが拒否し、他府県の親戚が開業しているA医療機関を受診した。そこで触診して腹部に腫瘍が認められたため、CT、腫瘍マーカー等の検査を施行したところ、膵臓がんが疑われ、他の医療機関でも末期の膵臓がんと診断された。その後は幾つかの医療機関を受診して、B医療機関に入院となった。
 患者側は、弁護士を介して証拠保全を申し立て、患者の延命機会を失わせたとして、注意義務違反を主張した。
 医療機関側としては、患者は療養指導をしたにもかかわらず、定期的に診察を受けず、診療にも非協力的で、次に受けるべき検査へのアプローチも困難であった。胃カメラ以外では検査を拒否され、エコー等の検査も施行できない中で、膵臓がんの診断を確定することは困難であったと医療過誤を否定した。
 紛争発生から解決まで約1年6カ月間要した。
〈問題点〉
 患者が診療に対して非協力的であったことはカルテ記載からも推測された。医療機関は、初診で腹部を触診できただけで、それ以後患者が拒否、また重篤な様子も見られなかったことから、患者の意向を無視してまで、強硬な診察は現実的に不可能であった。また、更なる精査を医療機関側が求めたのに対し、自分で勝手に他の医療機関を受診している状況などから察すると、このような状況で膵臓がんを発見することは不可能であったと判断された。今回のケースは医師の療養指導がポイントであり、診療に非協力的な患者は、自己責任を突き付けられることを示唆している。当然ながら、医療とは医師と患者の信頼・協力関係がなければ成立しない。このことを全国民に更に啓発していく必要があるだろう。
〈顛末〉
 患者側のクレームが途絶えて久しくなったため、立ち消え解決とみなされた。

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