医師が選んだ医事紛争事例(12)  PDF

医師が選んだ医事紛争事例(12)

内視鏡による食道損傷で調停和解

(30歳代前半男性)
〈事故の概要と経過〉
 健康診断で、上部消化管内視鏡検査をキシロカインR使用で施行。一度目は嚥下挿入が上手くできず内視鏡先端をはねられたが、2回目はスムーズに挿入できた。患者は痛みを訴えることもなく、特に異常は認識されず検査を終了した。なお、食道入り口付近には少量の出血があったがすでに止血していた。患者はその後帰社したが、約3時間後に咽頭部の痛みを訴えて再診した。左前頚部に限局した圧痛を認めたが、触診と聴診、更に頚部・胸部レントゲン上は皮下気腫の所見はなく、痰に出血混入も認められなかった。そこでソルメドロールR(125)点滴と、ボルタレンR座薬(25)加療。痛みの軽減が認められた。患者には発熱等症状があれば夜間でも救急受診するように伝えた。患者はその後、別のA医療機関を受診して縦隔気腫の診断となり、同日、当該医療機関に転院入院して、抗生剤加療を行っていたが十分に排膿されず炎症が継続していたので、排膿、ドレーン挿入して全身麻酔下で気管切開術が施行された。患者は退院となり、職場復帰となり症状固定した。 
 患者側は、調停を申し立てた。
 医療機関側としては、医療過誤の有無については即断できなかったが、検査との因果関係は明らかにある。医師は内科、神経内科の専門医で、内視鏡検査は数千例経験があり、過去に損傷や穿孔の事故経験はなかった。説明については承諾書を取っていないので、食道損傷の可能性については患者に知らせていなかった。更に患者は、検査施行から1日おいてB医療機関を来院しているが、それまでに耳鼻咽喉科を紹介すべきだったと反省した。なお、B医療機関の医療費数十万円は患者に代わり当該医療機関が支払った。
 紛争発生から解決まで約1年間要した。
〈問題点〉
 過誤の判定は手技・事後処置が主な点となろうが、手技について医師は経験豊富で、かつ、検査中に何ら異常が認められなかったとのことであった。しかし、検査と食道損傷との因果関係は明確にある。なお、医療機関側は事後処置として耳鼻咽喉科に早急に紹介すべきとの見解を示したが、この判断は結果論であり、その当時のレントゲンを確認しても特段に異常はなく、耳鼻咽喉科を紹介しなかったことは過誤とはいえないと思われた。
〈顛末〉
 調停で和解金を支払い終了となった。なお、和解金額は請求額の約3分の1であった。

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