新生児骨折、院内の人間関係にも医事紛争の火種あり！

 

（0歳男児）

 

〈事故の概要と経過〉

　母親は30歳代後半で初産婦。前期破水して骨盤位であったので、産婦人科医師3人と麻酔科医師1人による緊急帝王切開を施行した。臀部が発露するまでは若干手間取ったが、それ以降はスムーズに娩出した。男児のＡＰスコアは10点、体重2860ｇで観察異常は認められなかった。ところが2日後に右下腿浮腫を認め、その後右大腿腫脹が著明となり、整形外科を受診したところ、Ｘ—Ｐ上、右大腿骨骨幹部骨折が判明した。

　患者側は、当初、カルテ開示の要求をしたが、実際には開示されておらず、十分な治療を医療機関に求めた後に賠償請求してきた。

　医療機関側としては、男児の骨折は娩出時に右大腿部に負担がかかり、その後、自動的もしくは他動的運動により発生した可能性が極めて高いと推測した。また、発症時期が48時間もかかっているのは分娩時外傷としては遅いが、その理由としては、軽い骨折が起こっていたのではないかとのことだった。予後については男児が新生児であるので、最低でも1年間は様子を見る必要があった。男児に特段に骨折しやすい体質があるか否か遺伝子の検査をするとのことであった。また、仮に術直前にエコーを撮っていれば、切開部位が多少異なり骨折に至らなかった可能性も否定できなかった。なお、術前の説明で、母体のリスクについては通常通り行ったが、男児のリスクについては話していなかった。

　紛争発生から解決まで約4年7カ月間要した。

 

〈問題点〉

　卒後4年の産婦人科医師が当該医師であるが、仮にベテランの医師であっても、避けられなかった可能性はあった。しかしながら、胎児は骨盤位で、かなり下がっていたことがレントゲンで判明していたので、エコー等を撮ってより慎重にすべきであったかもしれない。なお、上司の医師が「自分ならこんな事故にはならなかった」と患者に対して発言した経緯があったが、その発言は根拠に薄く、院内の人間関係や体制に疑問が感じられた。医療安全は組織が一丸となって対応しなければならないが、医療機関の職場環境には問題があったと思われる。賠償責任を半分程度は持つべきと判断された。

 

〈解決方法〉

　完全な過誤とは判断し難かったが、結局、医療機関側は全面的に過誤を認めて、患者の症状固定後に示談した。