「非営利」ホールディングカンパニー(持ち株会社:HDC)構想に歯止めを!
2006年の医療法改正以降、医療法人制度改革として医療法人継承問題や「持ち分なし」医療法人への移行促進、法人合併に伴う諸課題の検討などが行われてきた。11年規制改革会議でも医療法人の合併が議論され、13年の「社会保障制度改革国民会議報告書」で医療法人と社会福祉法人の合併の形として非営利ホールディングカンパニー(HDC)が提案された。この時すでに委員の権丈善一氏はこれが2025年地域包括ケアの一つの最終形と踏んでいた節がある。即ち一つの親HDCの下に、病院・診療所・老健等の施設・老人ホーム・居宅サービス系・ヘルスケア(含介護予防)等々を子会社化し、地域内の患者・被介護者のニーズを全て(最期の看取りまで)この「会社」内で賄うビジネスが成り立てば、その地域の2025年問題は解決されるイメージだ。問題は少数の巨大法人が領域住民全てを囲い込む中で、患者は法人の都合に振り回されても(例えば病院・訪看ステーションのリストラや介護保険から自費ヘルスケアへの強制移行など)他に逃げ場がないこと、グループ以外の医療機関等は淘汰されること、このような法人が支配する地域は採算が取れる医療圏に限られることなどである。不採算地域には自治体病院や地区医師会頼みで自治体型HDC類型などを作らせる目論見のようだ。
法人運営の問題も大きい。傘下の各事業体の意思をどう公正に反映させるか、また事業内容は老人ホームや配食・ヘルスケア等々営利企業の子会社参画が必然視される中で、「非営利」をどう貫くかなど、ガバナンスの問題が整理されていない。しかし、今後の正式な検討会議の開催前に、すでに産業競争力会議や経済同友会は民間営利企業の参入推進や民間企業とのイコールフィッティング思想を提言し、「非営利」の理念は変質されつつある。
儲かり戦略もう一つのHDC類型は大学病院を大学から切り離し大病院グループの中軸に据えて、新薬や医療機器の研究開発・販売・特許取得等の巨大産業体形成の方向である。治験も入院患者で迅速に行える。これに「患者申出療養」が絡むと未承認療法(薬)がドンドン実験治療可能となり、自費診療分が儲かりに上乗せされる。
このように財界を中心に夢は膨らんでいる。しかしこれは公的医療費抑制、自費医療・介護の社会構造であり、果たして国民・地域住民・医療や介護を受ける者にとって、また既存の病院(特に中小規模)や診療所・訪看事業所・高齢者諸施設等にとって、そして日本の医療・介護や健康・福祉政策のあり方として望ましい姿なのか? 今後の前のめりの議論には強い歯止めが必要である。