続 記者の視点(41)
読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平
知っておきたい「援助の7原則」
しばしば上から物を言う人たちがいる。学校の教師、職場の上司、権限を持つ役人、警察官……。えらそうにしたくて、そういう仕事を選んだ人もいるかもしれないし、使命感や責任感からそういう姿勢になるのかもしれない。
職業だけではなく、子どもに対する親の言葉は、命令口調になったり、「叱る」「責める」になったりする。
しかし、上からの物言いが本当に効果的かどうかは怪しい。少なくとも、本人を大切に思っているのであれば、けっして賢いやり方ではない。
社会福祉の世界には「バイステックの7原則」という有名な行動原則がある。ケースワーク(個別支援)を行うときに、クライエント(援助する相手)と関係を築くための実践的な技法を、1957年に米国の研究者がまとめた。
人を援助する仕事はもちろん、対人関係一般にも通じるところがあるので、少しかみ砕いて紹介したい。
(1)個別化=相手を一人ひとり、名前を持った個人としてとらえる。問題は人それぞれに違いがあり、全く同じ問題は存在しない。たとえば「脳梗塞で寝たきりの高齢女性」といった属性で判断しない。
(2)意図的な感情の表出=相手が自分の気持ちを抑えることなく、否定的な感情を含めて吐き出せるようにする。
(3)統制された情緒的関与=援助者は感受性を発揮し、共感などの態度を示す。ただし自分の感情を自覚してコントロールしながら行う。
(4)受容=相手の長所、短所を含めて、ありのままを受けとめる。言いなりになる必要はなく、社会のルールや市民道徳に反する行為を認めるわけではないが、頭から否定せず、どうしてそうなるのかを理解するよう努める。
(5)非審判的態度=相手を一方的に非難しない。自分の価値基準で裁いたり評価したりしない。その行為が問題解決のために良いか悪いかの判断は、相手自身にしてもらう。
(6)自己決定=相手の人格を尊重し、自分自身の考えや意志に基づいて決定し、行動できるよう援助する。
(7)秘密保持=プライバシーや個人情報を守る。
以上の原則に反する言動や態度をとると、相手はいやな気分になり、よい関係を築けないということだ。
医療従事者も、患者を援助する仕事をしている。上から物を言う医師は減ったが、看護師の中にも、患者を叱ったりする人が時々いる。
医療の世界では、患者に対する「指導」「教育」という用語が使われているからかもしれない。けれども用語のままに「指導する」「教育する」という態度で接するのは、考えものだ。
患者が実際に、適切な行動をする気にならないと意味がない。そのためには、対人技法を工夫するべきだろう。
7原則は多いので、さしあたり「個別化」と「非審判的態度」を頭に入れよう。
とりわけ非審判的態度の実践は難しい。日常生活の中でも、自分がどれほど審判的な態度を取っているかを振り返ると、配偶者の機嫌が悪い理由もわかるかもしれない。