医師が選んだ医事紛争事例(3)  PDF

医師が選んだ医事紛争事例(3)

 
なくせない? なくならない! 注射による神経損傷
 
(60歳代前半女性)
 
〈事故の概要と経過〉
 4年前から頚肩腕症候群で受診していた経緯あり。カテラン針で0・5%リドカイン2とノイロトロピン特号32本を、左側頚部で左上肢へ神経が分岐する近くに注射したところ、左上肢に放散する電撃痛を訴えたため、すぐに約2�深度を浅くして注射を続けた。ところが診察室より出る頃より、左上肢に痺れ感を訴えたのでマッサージを行った。再度診察室に入室してきたとき、左手指の握力低下を訴えたので握力測定したところ、左4�、右23�であった。同時に左上肢の疼痛を訴えたが、知覚麻痺は認めなかった。その後ロキソニンを投与したが、左の中指・環指・小指の末節に知覚鈍麻と左手掌尺側にくすぐり感を訴え、握力が左10�、右16�で、左手によるボタンのはめ難さと紐の結び難さを訴えた。握力等に変化がないため、造影MRIを他のA医療機関にて施行し、その結果、C6/C7椎間板ヘルニアが見られ、頚髄軟化症または脊髄空洞症の疑いがあった。そのため、B医療機関の整形外科に紹介したが、患者からのB医療機関における検査結果の報告はなかった。
 患者側は、握力が低下して仕事に就けず、バイクに乗り難いと訴えた。
 医療機関側は、同様の注射をこれまでにも多数施行しており、今回の注射における注射部位、角度、深度、注射液、針の太さ長さ等について、これまでの注射と違うところがあるとはいえず、医療過誤はなかったと判断した。
 紛争発生から解決まで約3年5カ月間要した。
 
〈問題点〉
 医療機関が主張するように、注射における部位、角度、深度、注射液、針の太さ長さには問題がない。しかし、医師は患者が左上肢に電撃痛を訴えた直後に約2�深度を浅くし、そのまま注射を続けているが、本来、患者が痛みを訴えた時点で注射を中止する必要があったのではないか。ただし、この時点で注射を中止したとしても、予後に変化がなかった可能性は否定できない。
 
〈解決方法〉
 医療機関側が医療過誤は認められないと主張したところ、患者側のクレームが途絶えて久しくなったので立ち消え解決とみなされた。

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