医療・介護総合確保法が成立 今後は地方自治体が舞台に
6月18日、参議院本会議で医療・介護総合確保法(地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備に関する法律)が成立した。
協会は、多数の会員にご協力いただいた同法案の廃案を求める署名や国会議員要請をはじめ、同法案の問題を指摘しながらの運動を展開してきた。
法案成立直前の6月10日、安倍首相が新たな混合診療拡大構想「患者申出療養(仮称)」を提案したのを受け、即座に撤回を求める談話を発表した(下掲)。
談話では、日本の医療者が無差別・平等原則に立ち、高い水準の医療をすべての患者に提供することを当然の任務としている。そのバックボーンに「保険証一枚で必要な医療が必要なだけ保障される」国民皆保険制度がある。「身近な医療機関」での混合診療拡大で、地域の医師が「富める者しか受けられない医療」の拡大・推進に動員される事態が危惧されると厳しく批判した。
根拠を失ってもなお
さらに厚生労働大臣が法案の根拠となったデータを国会で撤回するという前代未聞の問題も起こった。これは、まだ総合確保法案を準備していた2013年9月25日の社会保障審議会介護保険部会(第49回)で示した、介護保険の利用料2割負担化の対象とする「一定以上所得者の基準(案)」として、「被保険者全体の上位約20%に該当する合計所得金額160万円以上」を提案した際、「余裕がある」から2割負担でも大丈夫との根拠に用いた家計調査における消費支出データが、実は別の収入階層の消費支出だったことが発覚したものである。田村厚生労働大臣は厚生労働委員会でこの「誤り」を認め、撤回・謝罪した。しかし根拠を失っても政府・与党は法案可決を引き続き目指す姿勢を見せた。協会はこれを問題視し、6月12日に緊急国会議員要請を実施、審議に耐えない法案は廃案すべきと説得活動を行った。しかし政府は数の力でこれを成立させた。
法が成立し、ここからは様々な政省令・ガイドラインが国から地方自治体へ示されることになる。協会は引き続き、患者の医療を守り、国民皆保険を堅持し、発展させる立場で手綱を緩めず、運動を展開する。
談 話 総合確保法成立にあたって 最悪のシナリオのページをめくらせないために
6月18日、参議院本会議で医療・介護総合確保法(地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備に関する法律)が成立した。
先行して2014年度診療報酬改定が、そして法成立と相前後して「『日本再興戦略』改訂2014」「経済財政運営と改革の基本方針2014」「規制改革実施計画」と、成長戦略に絡む三つの閣議決定がなされた。また、安倍首相が意気揚々と「患者申出療養(仮称)」(新たな混合診療拡大策等)を提案した。これらの動きが、総合確保法成立と連動していることは明らかであり、現政権が医療分野における「給付抑制」と「産業化」を、2正面で進めていることがいよいよ明白となった。
総合確保法の成立で、10月1日から施行となる「病床機能報告制度」が、川上の改革=機能分化(それによる病床削減・平均在院日数短縮)の第一弾となる。わが国の医療への影響は文字通り「大転換」をもたらすものとなる。
病床機能報告を受け、都道府県は「2025年の医療提供体制」を地域医療構想にまとめる。これにより、現在の「基準病床数」だけでなく、「病床機能別の必要量」が決定されることになる。構想を実現するため、都道府県は新たな権限を持たされる。その過程において診療報酬による誘導が用いられることは想像に難くない。例えば、地域医療構想への位置付け自体が、算定要件となる可能性が高いのではないか。まさに、都道府県が医療費の抑制主体として、重大な役割を担う時代の幕開けである。
一方、「新たな成長エンジン」に位置付けられた医療・介護サービスの成長産業化が展開される。川上に創設される「臨床研究中核病院」は、新薬創出を目指した再生医療の研究・開発に公費を注ぎこむ舞台となり、一方で患者申出療養や日本版コンパッショネートユース等、混合診療本格解禁の拠点となる。
同時に、病床削減・平均在院日数短縮の受け皿である川下の改革=地域包括ケアシステム構築では、システム自体が民間営利産業に委ねられかねない。地域の医療・介護は民間営利産業と結びついた非営利ホールディングカンパニー方式による「メガ医療・介護事業体」に委ねられる。地域の開業医も「ゲートキーパー」として位置付けられる。医療・介護保険の給付から切捨てられたニーズは、ヘルスケア産業の食い物となる。「自助」で医療・福祉を購入せねば自らの生命を守れない事態が横行する。経済的事情が生命と健康を左右する時代の幕開けである。
このような最悪のシナリオのページが今、めくられつつある。
私たち医療者が、安心してよい医療を追求し、患者の生命と健康を守ることができたのは、「保険で良い医療を全て提供できる皆保険制度」があったからである。その命運を握るのは、国民の声と支持である。私たちは、今日の医療・介護改革の底流にある新自由主義改革に対抗し、社会保障で幸せになれる国の実現を患者・国民と共に目指す運動の前進により、この最悪のシナリオを撤回させるべく取り組みを強化する決意である。
2014年6月30日
京都府保険医協会
副理事長 渡邉賢治