保険者による直接審査に向け規制改革 皆保険制度を守るため強く反対
規制改革会議は6月13日、「規制改革に関する第2次答申」を発表した。「患者申出療養(仮称)」等の提案に紛れて、「保険者がまず全てのレセプトを直接審査する仕組みの導入」を打ち出した。2014年度中に検討し、結論を得次第、措置するとしている。支払基金・国保連合会による民主的な審査と迅速な支払いは国民皆保険制度の根幹であり、協会は保険者による直接審査を認めることはできない。
この問題について、朝日新聞は6月13日付朝刊で、「厚生労働省は、病院からの医療費請求の審査を2団体がほぼ独占している現状を来年度から改め、まず企業の健康保険組合などの保険者が点検し、問題のある請求書だけ2団体の審査に出す仕組みを導入する方針を固めた」と、あたかも既定路線かのように報道した。保団連が厚労省に確認したところ、「現時点で省の方針ではない」としながら、「閣議決定されれば検討する」との回答であった。
規制改革会議「第2次答申」によると、「保険者機能の充実・強化に向けた環境整備」として、「保険者がまず全ての診療報酬明細書の点検を可能とする仕組みの導入(2014年度検討・結論、結論を得次第措置)」を打ち出している。具体的には、「現行法において、審査支払機関の審査の前に点検することを希望する保険者は、希望どおりに支払基金又は国保連が審査する前に請求内容の点検を行い、疑義がある診療報酬明細書のみを支払基金又は国保連に審査依頼を行うことが選択可能である」ので、「このことを前提として、審査支払業務の効率化を図るべきとの指摘を踏まえ、必要となるシステムの改修、保険者に周知すべき手続内容、審査手数料の在り方等について検討を行い、結論を得る」としている。つまり、一次審査(原審査)は保険者が行い、二次審査(再審査)だけを審査委員会に委託するという制度に変えようというものだ。
通知で解禁できる危険性
では、現行法ではどうなっているのか。健保法は第76条第5項で「保険者は、審査及び支払に関する事務を支払基金又は国民連合会に委託することができる」と定められており、審査委託は義務ではない(国保法、高齢者医療確保法も同じ)。しかし、健康保険組合などに対して支払基金に審査・支払を委託することを事実上強制していた通知(1948年厚生省保険局長通知)が存在していたため、保険者がレセプトを直接審査することはできなかった。
だが、2001年12月、総合規制改革会議が「第1次答申」で「保険者によるレセプトの審査・支払」を打ち出したことを受けて、厚労省は上記の通知を廃止。直接審査が可能となったが、(1)医療機関との合意が必要、(2)合意した医療機関の全てのレセプトを当該保険者が審査しなければならない、(3)合意は当該保険組合の規約に記載しなければならない—の3点がボトルネックとなり、現在まで医療機関のレセプトを直接審査している保険者はなかった。
しかし、今回の「第2次答申」は、(1)医療機関との合意要件を撤廃し、医療機関への通知で足りることとする、(2)疑義があるレセプトのみを支払基金又は国保連合会に審査依頼することを可能にしてしまう、(3)医療機関名の組合規約への記載は不要にする—等、厚労省に通知の改正を求める。ここまで要件を緩和されてしまうと、大規模な健保組合など、手上げする保険者が出てくる可能性がある。
支払基金・国保連合会の両審査委員会は、診療担当者代表、保険者代表、学識経験者、または公益代表の三者からなり、委員は保険医が務めている。保険者による直接審査は、戦後の公的保険医療の普及と皆保険制度の確立に努力した保険医運動の遺産を形骸化し、現場を尊重した審査の崩壊をもたらす危険性がある。
支払遅延で保険医が追いつめられることに
支払遅延も心配だ。規制改革会議のワーキンググループでは、「疑義があるレセプトについて支払いを遅らせて、基金の判断を待つ」等という意見も出されている。
支払基金の創設以前は、支払遅延が深刻であったため、保険診療は軽視されていた。1948年に支払基金が設立され、審査・支払がスムーズに行われることにより保険診療が広く浸透した。疑義のあるレセプトが支払遅延されることになれば、保険者の力が強くなり、勝手な解釈で現場無視の審査が横行、支払遅延が頻発して、現物給付の原則が崩壊する可能性がある。それほど大きな問題である。
保険者による直接審査の実施を許してはならない。