事故調のいう「予期せぬ死亡?」に備えて(8)  PDF

事故調のいう「予期せぬ死亡?」に備えて(8)

産後に母親死亡、執刀医師1人では不十分?

(50歳代後半女性)

〈事故の概要と経過〉

 過去2回の経産婦でいずれも帝王切開の経緯があった。お産で入院、翌日に帝王切開術ならびにポローの手術を施行した。術前から全前置胎盤であることが判明していたので強出血を予測し、輸血・補液を実施したが、予想外に出血量は少なく開始後20分で胎児を娩出した。母親も意識清明であったが手術終了間際、術開始後1時間20分後に突然、虚脱状態、心肺停止、意識消失となった。直ちに心臓マッサージやドーパミン等の投与など救命措置を取るとともに、患者の状態から搬送不能の為、A医療機関循環器科の医師に応援を緊急依頼した。その後はA医療機関の医師が可能な限りの救命措置を施行したが、患者は意識消失2時間15分後に死亡した。死亡診断書には「肺梗塞又は脳梗塞原因とする急性心不全」と記載された。

 患者側は、弁護士を介して以下の通り過誤を指摘して情報開示を求めてくると共に、賠償請求してきた。

 (1)癒着胎盤が予測されたにもかかわらず、その処置を怠った。

 (2)執刀医師が1人では不十分である。複数の医師で施行するべきだった。

 医療機関側としては、手術は出血量も少量であり、心肺停止するようなことは予測不能で、医療過誤を認める要因はない。更に執刀医は確かに1人であったが、AEDも用意していたし、不測の事態が発生した場合は医師が駆け付けられる態勢を採っていたとして医療過誤を否定した。

 紛争発生から解決まで約1年7カ月間要した。

〈問題点〉

 明らかな過誤を指摘出来るものではなかったが、医師が1人で執刀していたことが後に問題となった。更に、可能な限りの救急救命措置を取ったと医療機関側は主張したが、カルテ記載が不十分でその証明が困難であった。最終的には日本医師会に判断を仰ぐこととなった。

〈解決方法〉

 一部、医療機関側は過誤を認めて、賠償金を支払い示談した。なお、賠償金は患者の請求額の20分の1程度であった。

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