事故調のいう「予期せぬ死亡?」に備えて(6)
ERCPで病状悪化して死亡
(50歳代前半男性)
〈事故の概要と経過〉
右季肋部痛・嘔吐があり、その2日後に当該医療機関の内科を受診。黄疸・右季肋部圧痛を認め、血液検査で総ビリルビンが10、腹部エコー検査で胆嚢・総胆管拡張を認めたため、後日精査加療目的で入院となった。診断と減黄目的に内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)・内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(ENBD)を施行。ドレナージチューブは末梢の胆管までスムーズに挿入し、胆汁も返ってきたことを確認。30分程度で処置は終了し、特に問題はなかった。検査の結果、総胆管結石、あるいは胆管癌が疑われた。処置後より心窩部痛を認め、諸血液生化学データより急性膵炎と診断し、抗プロテアーゼ剤、抗生剤による治療を開始した。その後、膵炎増悪を認めたため、原因がENBDチューブ留置による膵液排泄障害と判断し、ENBDチューブを抜去するも総ビリルビンが13から19へと上昇し中等度重症膵炎に増悪した。また、減黄が後退するためミラクリット1日15万単位とFOY600mgの使用を開始した。3日後にはCT検査で膵周囲の炎症を認めたが、膵炎は治癒。しかし以後も膵周囲の炎症が増悪し膿瘍形成を認めたため、腹腔ドレナージ術の施行を外科とも検討したが黄疸が強く、一時感染炎症データの改善をみたため経過観察とした。その後、経皮経肝胆道ドレナージ(PTCD)による減黄処置を施行し、次第に減黄改善が得られた。PTCDチューブよりの造影で、Mirizzi症候群の可能性も考えられた。WBC34400、CRP12・7と膵周囲の炎症増悪が見られたため、同日外科へ転科となり開腹下腹腔膿瘍ドレナージ術を施行した。その後、十分にドレナージが効いていない状況になり、造影でリークのあることが認められた。そのため減黄が十分にできない状態となり、腎不全、末梢胆管狭窄も加わり、ドレナージを繰り返すもDICとなり患者は死亡した。
遺族の主張は以下の通り。
(1)昨年の夏頃に、胆石があると言われたが、痛みもなかったため処置をしなかった。今から思えばその時にしていればと思う。
(2)夫の母も同じように、ERCP検査後に急性膵炎を起こし、1年半ほど入院した経験があったため、内視鏡を施行することについては心配であった。しかし医師から内視鏡なら1カ月ほどの入院で大丈夫だからと言われ承諾した
(3)ERCP検査をもっと経験のある医師が行っていたらどうであったのか。
(4)ERCP検査後に痛みが起こったが、もっと早くにチューブを抜いた方がよかったのではないか。
(5)外科医師との懇談では、ERCP検査後の膵炎について、医療ミスとは言っていないが、医療事故と説明していた。しかし、いつのまにか内科の処置だけが問題になっている。こちらとしては医療機関における医療全体を通してどうであったのか知りたい。
(6)院長から懇談の席で、最終的に力が及ばず残念であった。できる限りのことはさせていただくと言われ、医療費については後から返ってくると聞いている。
医療機関としては、家族から膵炎の原因について外科に問い合わせがあり、これに対して外科医師から膵炎はあくまで減圧チューブが挿入できたために生じたものであり、内視鏡手技は成功であった。ERCP検査を行っていなければ、今回の病態には至らなかったが胆管癌を疑った場合の必須の検査であると伝えている。また内科医師、院長からは、ERCP検査の必要性もあり、その後の患者の急変に対する処置も適切に処置し問題はなく、検査についての説明も十分に行ったとしてミスはなかったとした。
紛争発生から解決まで約3年6月間要した。
〈問題点〉
ERCP・ENBD検査の適応はあり問題はない。担当内科医は卒後5年で10例程度の経験であったが手技的に問題はない。ERCPの合併症である急性膵炎に対する処置も適切であり、2月2日に膵炎は治癒し減黄改善も得られている。しかし膵周囲の炎症の増悪のため急変し、外科に転科しているが、外科における処置について情報が乏しく、以後の経過の詳細が解らなかった。なお、外科医師は、患者家族から、患者の両隣のベッドにMRSA感染の患者がいたため、当該患者がMRSAを発症したのではないかと病院の管理問題に不信を投げかけられるとともに、このようになったのは内科での処置に問題があったではないかと問い詰められ、内科の内視鏡の挿入方法に問題があったと言及したようである。そのため院内で、内科と外科が険悪な状態になったが、院長はこの問題に対し、取り纏める姿勢が窺えなかった。医学的というよりは患者対応や院内体制の問題が大きかったと推測される。
〈解決方法〉
医学的にはミスのないことを患者側に伝えたところ、患者側のクレームが途絶えて久しくなったので立ち消え解決と見なされた。