事故調のいう「予期せぬ死亡?」に備えて(5)
交通事故での救急医療の水準が問われたケース
(50歳代後半女性)
〈事故の概要と経過〉
原付バイクを運転中に営業車との交通事故で救急搬入された。患者の救急搬入時には外来で婦人科の医師が対応していたが、ICUから脳神経外科医師とともに当該医師が担当した。CT検査の結果、腹腔内出血を認め緊急手術となったが、翌日に外傷性脾損傷で死亡した。なお、後日、加害運転手は弁護士を雇う経済的余裕もなく、業務上過失致死罪が適用され刑務所に収容された。
患者側は検査時の対応やその遅れ、さらに手術ミスに対して、証拠保全を申し立てた後に、運転手の勤務している会社、運転手、医療機関の三者を被告に訴訟を申し立てた。
医療機関は、検査時の対応に不備や遅れはない。外来からICUまで約1時間15分経過しているが、当該医療機関としては成績の良い方である。さらに手術に関しても医学的に反論できるとして医療過誤は無いと主張した。
紛争発生から解決まで約1年5カ月間要した。
〈問題点〉
外来からICUに入るまで約1時間15分を要しているが、その間のデータをはじめ、カルテ記載がほとんどなかった。つまり、ICUに患者が入るまで、時間がかかり過ぎていたことはもちろん、適切な医療を搬入時に施行していなかった可能性が疑われることになる。患者は脾臓損傷のみであったので、適切な治療が行われていれば、救命の可能性も否定できない。したがって医療過誤がなかったと主張することは困難と考えられた。なお、当該医療機関のカルテは電子化されているが、きわめて確認しがたく、入力時間が医療行為時間と誤解されるような形式になっており、コンピュータソフトの改善が求められた。
〈解決方法〉
医療機関はあくまで医療過誤はないと主張し続けたが、裁判上ではやはり不利な様子が窺われ、最終的には裁判所から和解が勧告された。当初、医療機関は判決(勝訴)を望んでいたが、和解勧告額が訴額の1割以下だったこともあり、最終的には和解に応じた。なお、運転手の会社は自賠責保険からすでに賠償しており、運転手は刑事罰を受けたこともあり、和解金は医療機関のみが支払う結果となった。