主張/医療安全シンポジウムにご参加を 齟齬ある対話は紛争を拡大する
京都協会は、医療安全シンポジウム「精神疾患が疑われる患者さんへの対処法—精神疾患の理解を求めて」を来る3月15日(土)に開催する。
医療上での期待外れと、診察時の不信感から訴訟に至った以下の事例がある。
某医科大学形成外科教授・医師は、不当訴訟と名誉毀損ないしプライバシー侵害を根拠に、元患者・弁護士・毎日新聞社を相手に提訴した。事は、戸籍上男性の半陰陽患者に女性性徴が出現し、1996年11月21日膣形成術の相談で同医師への受診に始まる。問診、顔写真撮影がなされ、患者は画期的な方法の提案を期待したが、通常のもので不満を残した。2年半後、医師は国内第1例目の性転換手術の実施でマスコミにも取り上げられ有名になった。患者は、それに不快感を募らせ、股間から顔をのぞかせる、いわゆる「天橋立の姿勢」での写真撮影を要求され、乳房を両手で揉むように診察されるセクハラを受けた、と週刊文春に電話した。取材時、医師は「性転換手術に先立ち真に性転換希望者か、同性愛者か、精神分裂病※患者かの鑑別が重要で、そんなことを言うのはやはり分裂病※でしょうね」と発言した。記事が掲載され、患者は、分裂病※と公言された名誉毀損とセクハラを根拠に提訴した。弁護士は、積極的に記者会見を招集し、毎日新聞全国版は医師を実名報道した。患者の主張は、証拠との齟齬や供述の変遷・曖昧化などで、信憑性が疑われ請求が棄却された。
医師からの提訴では、裁判所は、元患者に、セクハラ主張は虚構に基づき著しく不当で、それに依拠する提訴は裁判制度の趣旨・目的に照らして著しく相当性を欠くと認定し、330万円の賠償を命じた。弁護士には、記者会見は、本人の依頼に依らず、訴訟活動に必要な正当業務でなく、事務所に問い合わされる支障回避が目的で、専ら公益を図る目的になく、内容的にも記者に知られると医師の社会的評価を低下させる、と名誉毀損(55万円賠償)を認めた。新聞社には、記事は名誉を毀損するが、公共の利害に関わり、専ら公益を図る目的で内容も真実と、違法性を否定した。
しかし、一般に知られてない個人の私的領域に属する事柄で、一般人の感受性からみて公表されたくない場合はプライバシー権(みだりにそれを公表されぬ法的保護に値する利益)がありその侵害(110万円賠償)を認めた(東京地判平17・3・14判例時報1893号54頁)。
控訴審では、原審の判決を取り消し、医師の請求を棄却した(東京高判平18・8・31判例時報1950号76頁)。微妙な問題だが、当事者間では法律上のけじめが必要となったものと考えられる。
医療の安全確保と患者・医療従事者間での相互理解の向上に、協会シンポジウムに是非ご参加ください。
※は判決文のまま