外科向上会レポート 慢性創傷の治療戦略〜昔の常識、今の非常識〜
外科診療内容向上会を京都外科医会、京都府保険医協会、大日本住友製薬株式会社の共催で11月9日に開催。洛和会音羽病院創傷ケアセンター長、洛和会音羽記念病院皮膚科部長の松原邦彦氏が「慢性創傷の治療戦略」について講演した。
「消毒する? しない?」から講演が始まった。日本褥瘡学会の「褥瘡予防、管理ガイドライン」より、「高度の汚染がある、または難治性の場合には消毒薬、局所抗菌薬を使用してもよいが、適応、期間につき慎重に判断すべきであり、生体への刺激や毒性、耐性菌を誘発する可能性などのデメリットがある」とされている。しかし、実際の臨床現場では、どのような場合に使用すべきかは迷うことも多いと話していただいた。
慢性創傷の治療を阻害する要因として、TIMEコンセプトがあげられる。Tは壊死組織や不良肉芽、Iは感染、Mは浸出液の不均衡、Eは創縁の進展不良などをあらわし、適切に処置することにより創は治癒する。Tに対しては、まずデブリードマンを考慮する。デブリードマンには、外科的に切除、化学的にタンパク分解酵素剤を用いる、自己融解的として湿潤環境による修復反応、物理的に高圧洗浄など、生物学的にマゴット療法がある。その中で、参加者の興味を引いたのが、マゴット療法つまりウジ虫を用いた生物学的デブリードマンである。ウジ虫の分泌物に抗菌ペプチドが含まれ、創を清浄化するとのこと。次いで、Iに対しては、ドレナージと、場合により抗生物質の全身投与。Mに対しては、各種軟膏や被覆材の使用による、適切な湿潤環境の維持。Eに対しては、肥厚した角質が創治癒を阻害するため、創縁のデブリードマンを行ったり、摩擦、圧迫が背景にある場合には、除圧が必要で、足底板などの装具作成のため、義肢装具士やリハビリスタッフと連携が必要になる。また、PRP療法といって自己血を用いて、分離した多血小板血漿を創部に散布して、血小板に含まれる増殖因子を利用し、創の清浄化を得る。実際の臨床例を示していただき、わかりやすく講演を聴かせていただいた。
松原氏が創傷ケア医として目指されているのは、アメリカの制度にある足病医である。慢性創傷は、褥瘡を初めとして、糖尿病、慢性閉塞性動脈硬化症、下肢静脈瘤などの基礎疾患があり、それらの治療が必要である。また、腎透析中の患者も難治性創傷を発症しやすい。そこで、糖尿病内科ならびに栄養士、循環器内科、血管外科、腎臓内科、皮膚科、整形外科、形成外科、リハビリスタッフ、義肢装具士、それに、かかりつけ医や介護スタッフとの連携が必要である、と締めくくられた。(山科・坂部秀文)