12年度医療安全シンポジウム開く  PDF

12年度医療安全シンポジウム開く

個人情報保護ありきの医療は本末転倒

 協会は3月9日、京都市内のホテルで「患者さん対応に困ったケース─守秘義務等について」と題した医療安全シンポジウムを開催した。シンポジウムには会員や会員医療機関の従事者ら182人が参加。4人のパネリストの話題提供の後、熱心に討論・意見交換した。(3面に関連記事)

 シンポジウムは、京都きづ川病院医療安全管理室マネジャーの塚田紀子氏、田辺中央病院看護副部長の比良伸子氏、京都中央法律事務所弁護士の松尾美幸氏、東京大学大学院法学政治学研究科教授の樋口範雄氏が、それぞれの立場で問題提起をした。

守秘義務を巡る現場の苦悩を報告

 塚田氏は、今回のシンポジウムのために、勤務先医療機関内で行った事前アンケート結果を報告。その中で、院内・院外における従業員の患者に関する会話やデータの取り扱い状況を述べるとともに、看護師が患者の余命を夫に話したことを発端として、患者の家族にまでその事実が伝わってしまった判例(福岡高裁12年7月12日判決)を紹介した。余命の告知は極めてデリケートな問題で、患者本人のみでなく家族にまで影響を与える個人情報。患者各々の事情により対応が変わるため、現場で大変苦慮すると訴えた。

  過度の法律遵守が  業務に支障も

 比良氏は、2005年に制定された個人情報保護法に対応するため、クリップボードなど患者情報が記載された書類を他者に見られないよう、毎回裏に向けて置いたり、院内での患者確認に余計に時間が取られるなど、現場の状況を説明。非常に神経を使う個人情報保護法遵守が本来の医療業務に支障をきたし、全従業員に過度の負担となっていると問題提起した。

弁護士対応で打開策も

 松尾氏は、医療機関側代理人の立場から、京都で実際に発生した個人情報漏えい事例を報告・解説。医療機関のスタッフが患者の知り合いに対して、患者の住所を知らせたことが発端となり、賠償請求にまで至った事例等を紹介した。

 最終的には弁護士が介入することにより、患者が言いがかりをつけていたことが明白になったが、対応に困った場合は、迷わず保険医協会に連絡をすれば、場合によっては弁護士が対応し、必ず打開策が見つかると強調した。

より良い医療のために個人情報の尊重を

 樋口氏は、法的に守秘義務・個人情報保護を解説するとともに、いくつかの情報漏えいに関する事例を紹介した。そこでプライバシーと個人情報の違いを述べ、医療現場では必要以上に個人情報保護を意識した、あるいは意識させられた結果、さまざまな問題や過去には考えられなかった事故・事件も起こっていることに言及。個人情報保護ありきの医療ではなく、医療ありきの個人情報保護でなければ本末転倒であると強調した。

 さらに、医療の現場では正確な法律の知識が必要であるが、個人情報保護に対する意識を変えていかないと、スタッフの負担感は軽減されないのではと危機感を示した。

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 パネリストの発表の後、質疑応答が活発に行われた。なお、これらシンポジウムの詳細は冊子にまとめ、全会員宛に5月末の発送を予定している。

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