改訂版 医療安全対策の常識と工夫(75)
混同すると医事紛争の拡大です!「賠償」と「補償」
「賠償」と「補償」の意味を国語辞典で調べる限り、その差はあまりないように思われます。世間一般でも、その区別はあまり認識されていないかもしれません。しかしながら、医療安全対策を講じ医師賠償責任保険制度を運用している京都府保険医協会としては、その意味の違いを常に明確にしています。ここに簡単ではありますが、我々が医療安全対策上、定義している「賠償」と「補償」について説明します。
賠償=医療過誤が認められ、かつ患者さん側の損害と因果関係があると判断された場合に相当する金銭を支払う行為。医師賠償責任保険の対象となる。
補償=過誤が認められないにも関わらず、医療行為の結果が悪かった場合、あるいは患者さん側の満足を得られなかった場合に相当する金銭を支払う行為。「賠償」と明確に区別するために「無過失補償」と表現されることも多い。医師賠償責任保険の対象とならない。
ここではあくまで協会の経験則から簡明に紹介しただけで、必ずしも全てを表現しているわけではありませんが、この説明だけでもある程度はご理解いただけると思います。医事紛争に「補償」の概念を(安易に)導入することがいかに危険であるか、これで少しでもイメージが浮かぶのではないでしょうか。
しかしながら、それでも医療現場からは賠償保険ではなく、補償保険を要望されることがあります。率直に申しますと、産科医療補償制度等は例外として、現時点ではどこの損保会社もそのような保険を販売しないと思われます。早い話がそのような保険は商品価値が認められないのだと推測されます。もし、「医療補償」を考えるとすれば、それは医療界や損保業界のみでは困難で、先述した産科医療補償制度のように、国家レベルあるいは国民レベルでの検討が必要かと思われます。
次回は、最終回です。