外科診療内容向上会レポート
最近の肝臓外科治療のトピックス
ナビゲーションシステムを用いた肝切除術
外科診療内容向上会を11月10日、京都外科医会、京都府保険医協会、大日本住友製薬株式会社の共催で開催。大阪医科大学一般・消化器外科教授の内山和久氏が「最近の肝臓外科治療のトピックス」について講演した。
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多数の術中動画を用いて、最近のハイテク技術を用いた肝臓外科手術の実際を見せていただいた。
肝切除は肝細胞がん(HCC)治療の根治的な手技であり、原発性肝がんに対し、開腹により、肝門部グリソン処理を先行して肝葉切除をする系統的肝切除を行っている(転位、再発例は腹腔鏡的部分切除術)。それは、主腫瘍の周囲に広がる門脈・脈腫瘍栓を含む腫瘍領域の完全除去が可能で、より大きな外科的マージンをとって肝内転移を防いでいる。この系統的肝切除の補助として、肝臓のMD―CTから立体画像化するためのソフトSynapse Vincentを用いて、術前に門脈・静脈の血管走行の立体構築がわかるだけでなく、推定切除肝重量も算出(実際の切除量とほぼ一致)し、肝機能に応じた安全切除量の判定を行っている(肝予備能が低い場合は術後肝不全を危惧し部分切除となる)。肝切除症例の術前には全例ICG試験を行い、術中の肝転移巣の検索を兼ねる。系統的切除の術中には、ICG試薬の静注下の近赤外線蛍光カラーカメラシステム(HEMS)のLED照射によるICG発光から肝表面の切離線を判定し、肝実質内の切除ラインの同定には、超音波造影剤Sonazoidエコーを用いて、切除マージンを求める。これで術前認めなかった新たな転移巣や、Sonazoid が肝切終了まで残り、肝切後も残肝の転移巣も再確認ができる。このようなシステムを駆使して、2年間では、再発率が有意に低いことを紹介された。
同時に、大阪医大消化器外科の紹介では、胃がん、食道がん、大腸がん、乳がん、肝胆膵外科手術の症例数が多い、その特徴は、腹腔鏡assistの手術ではなく、単孔式臍上下3cmの開腹創の完全腹腔鏡 による手術で、胃全摘など胃がん手術の全てが行われている。腹腔鏡下での、腸吻合の際には、特殊な針付き糸(V−LOC180:糸自身に戻りが全周性・等間隔についている状態の糸)を使って腸断端の縫合に使う(狭い空間で糸が緩まず、糸断端の結紮が不要−治験中)。大腸がん症例では、429例中413例(96%)が腹腔鏡手術で、その中でも難易度が高い直腸がんが226例で、全国でも1位の症例数。演者の専門領域、肝胆膵の領域では、昨年は201例で、本年は、300例近くの手術数になる見込み。当院の単孔式では、高価なSILSPortを使わずに、gloveporttechnique(臍上下3cmの開創部に、ゴム手袋をかぶせたような単孔式キット)を開発中で、リニアカッターなどを使って、系統的肝外側区域切除ができ、現在では、再発性、転移性や部位を問わずに腹腔鏡的肝切除を積極的に行っている。
術後にドレインを置かない。肝切除後、抗菌薬は術前、術中投与して、術後投与なしといった最近の肝臓外科手術のトピックスについて、話をされた。
(下京西部・上田尚司)