TPPはトロイの木馬
理事長 関 浩
京都府保険医協会会員の皆様、2013年新年明けましておめでとうございます。
12年8月、消費税増税法と同時に成立した社会保障・税一体改革関連法案のうち、「社会保障制度改革推進法案」は、改革実現の期待とは裏腹に毒餌でした。その内容はこれまでの「国民皆保険の堅持」を放棄し、今後の社会保障制度改革を、自助・共助・公助の組み合わせと家族の助け合いを基礎におくとしました。社会保険制度における公費負担を「社会保険料に係る国民負担の適正化」のために行うものと位置づけ、その主要な財源を消費税とすることで公費負担の意味を明確に書き変えてしまったのです。
保険給付の適正化、介護保険の保健医療サービス及び福祉サービスの適正化等と耳触りの良い「適正化」という言葉が並びますが、何のことはない給付制限と同意語です。生活保護制度の見直しも行い、個別具体的改革は当事者が入らない「改革国民会議」で議論するとしました。社会保障や国民皆保険制度解体の大波が国政レベルで押し寄せようとしている中、地方自治体が主な舞台となり、一体改革が構想する25年の医療・介護サービス提供体制―それは、入院から在宅へ、医療から介護へ、施設から在宅へ、保険給付から自助・互助へという方針に沿い、医療や介護に必要な公費負担を「提供体制」の側面から抑える仕組みです。
在宅医療に偏重した政策で、本当に地域の患者の生命、健康を守れるでしょうか。地域医療が不備なままで、地域包括ケアなどありえません。ましてや、現状でも問題だらけの不充分な地域医療体制を放置したままで、その補完のために地域包括ケアで代替できるかのようなまやかしは許されません。本来、推進の中心は、保健所をはじめ、公的機関が担うべきと考えます。地域中核病院、開業医医療の再評価を通じ、日本の社会保障制度を守ることの大切さを国民に伝えていきたいと存じます。
TPPは多国間において、全ての関税とあらゆる貿易障壁を取り除く協定です。関税を撤廃することによって工業製品の国際競争力を高めるといいますが、日本のGDPのうち輸出が占める割合は高々12%程度、今の輸出産業の苦戦は関税によるものではなく、円高によるものです。農業分野では、遺伝子組み換え食品や防腐剤にまみれた海外の安い食品が輸入され、農業は根こそぎ破壊されてしまいます。非関税障壁の撤廃によって規制緩和が進めば、経済が上向くといいますが、需要不足の現在、これまで以上に海外からの供給能力が高まればデフレがさらに加速することになります。TPP協定を門内に引き込めば、「ネガティブリスト方式」、「投資家対国家間紛争解決条項」などの武器を携え、国際的競争力を持つヘルスケア産業が奔馬のごとく流入するでしょう。協会は11年に発効した韓米FTAが韓国医療に及ぼす影響を調べるため医療視察を行い、問題点を「TPPは国民医療を破壊する」というブックレットで明らかにしました。TPPは韓米FTAよりさらに米国有利の協定です。数年後、日本から主要な製造業が失われ、失業率が高まり、農業は壊滅し、医療もスカスカの国民皆保険制度になってよいはずはありません。TPP参加は反対です。