捜査地図の女　撮影顛末記

渡邉賢治（西陣）

　突然、東映から電話がかかってきました。木曜ミステリーで、真矢みき主演の「捜査地図の女」という連続サスペンスドラマを企画し、そのロケ地として診療所を使いたいとの内容でした

　木曜ミステリーといえば、「おみやさん」「京都地検の女」「科捜研の女」など京都を舞台としたドラマです。うれしがりの私は即答でOKの返事をしました。

　数日後、東映の方が企画書と第1話・第2話の診療所でのシーンの台本を持ってこられました。ドラマの設定では、主演の真矢みきは代々町屋の診療所の娘で、医師にならずに刑事になり、診療所は夫役の渡辺いっけいが継いでいるというものでした。ちなみに真矢みきの母親役は草笛光子でした。

　いよいよ撮影です。撮影隊は照明、美術、音声、メイクの人たちなど総勢約30人もの人たちが集まり、撮影していきます。写真にもあるように、何もない診療所があっという間に撮影現場と変わっていきます。また渡邉医院は、今の診療所の雰囲気を壊すことなく松原医院へと変わっていきます。待合室にある火鉢もそのまま使い、第1話ではアップで映ったりしました。診察室は松原医院が「内科・アレルギー科」なので、肛門科の渡邉医院にはないもの、たとえばシャーカステンなどを持ち込み、あたかも内科の診療所のように作りあげていきます。渡邉医院から松原医院へ変わっていく過程はとても面白い。

　さて実際の撮影ですが、同じシーンを違う方向から何度も撮影したり、またアップのシーンは俳優ごとに別々に撮っていきます。例えば2対1で向き合って話をしているシーンでは、まず3人で話している全体を撮り、次に2人だけ、そして向かい合っている1人と、同じセリフを言いながら別々に撮っていきます。アップのシーンは俳優さんごとに撮影。それもまず準備から始まって、テスト、本番そしてチェックとＯＫがでるまで何回も続けていきます。そうやって撮った映像をなんの違和感もなく繋いで一つのシーンにする。俳優さんたちの華やかさと相反して、地道な作業の繰り返しでドラマは作られていくのだと感じました。また昼間に夜のシーンを、反対に夜に昼間のシーンを撮る。そのため、2階から照明器具で1階の待合室を照らし、昼間を作ったりします。「この角度で（照明器具を）絶対に動かすなよ」と照明スタッフに指示しているのを見て、ふと大学病院時代、手術に第2助手としてはいったとき、「しっかり術野をつくって動かすなよ」という場面を思い起こしました。しばらくたってから見に行くと、砂嚢などを使ってしっかり固定してありました。「撮影ではなんでもできるんですね」と聞くと、「大抵のことは何でもできますよ」との答え。さすがプロ。

　全部で5日間撮影。あっという間の出来事でした。突然の電話から始まった今回の撮影。とても楽しい経験をさせてもらいました。今も京都のどこかで同じように撮影をしているんだなと思うとともに、撮影が終わって何となく寂しい気持ちもあります。
「捜査地図の女」、人気がでて「新・捜査地図の女」とシリーズ化して、またこの楽しい経験ができればと願っています。