「マイナンバー」で ほんとに日本は大丈夫?  PDF

「マイナンバー」でほんとに日本は大丈夫?

推進派 新たな政策ツールが必要
慎重派 目的は社会保障給付の抑制

 協会は12月1日、9月の「TPP」に引き続き、「マイナンバー」をテーマに、会員対象連続講演会を開催した。推進派・慎重派双方のスペシャリストの意見を聞く企画。今回は、「マイナンバー制度は必要」との立場から森信茂樹・中央大学法科大学院教授、「マイナンバー制度に慎重・反対」との立場から田充・自治体情報政策研究所代表にお話しいただいた。参加者は25人。

 森信氏は大蔵省に入省、主税局で納税者番号制度に携わる。退官後は番号制度の検討に携わり、番号制度が導入される各国の現地も視察している。

 そうした経験から、大部分の先進諸国で導入されている番号制度の活用方法や範囲を説明。日本で検討されている社会保障・税番号は、住基ネットの情報を符号を介しながら社会保障と税につなげると解説。ただし、ハードウエア中心で活用法はほとんど議論されていないと現状を紹介した。

 税務におけるマイナンバーとは、公平性担保のためのマッチングを効率良く行う仕組みである。マイナンバー導入にあたり給付付き税額控除導入となる場合、低所得で配当・利子所得が多いという人にまで給付してしまう恐れが指摘されていることから、ここはポイントになると強調した。一方で制度を導入する以上、給付付き税額控除や記入済み申告制度等の国民受益政策も実施する必要があると提言している。

 また、マイナンバー制度が厚生労働省のリーダーシップの下に検討される一方、総務省が国民IDを検討していることを紹介。なおかつ、医療・介護分野の現物給付部分はまったく別建てで検討されており、これらすべてがどのようにつながるのかが見えていないと述べた。社会保障・税分野で番号制度を導入し、使途を拡大する際は国会で法律により一つひとつ定める手法をとるなど、国民と一緒に議論を進めるべきだと訴えた。

 続いて、田氏が市役所職員として税務を担当していた経験も踏まえて講演した。マイナンバー法案は廃案になったが、 民自公は法案の修正を合意しており解散さえなければ成立していた可能性も高い。一方で、国民の関心もマスコミ報道も弱いことが非常に問題だと指摘した。行政が番号を使うことにすべて反対ではないが、なぜ「共通番号」でなくてはいけないか。国は真に手を差し伸べるべき人に保障するというが、それは給付を行うにふさわしい国民か否かの判定につながり、国民一人ひとりを分類・仕分けする監視社会の到来を招くのではと危機感を示した。

 さらには、ホームレスやDV被害者など住民登録が抹消されている人々には番号がつかず、社会保障ばかりか就労からも排除される可能性がある。そもそも国民は生活の各場面で番号を求められる社会の到来を理解し、求めているのかと指摘した。

 続く対論では、森信氏から田氏の話はもっともで、特に国民に知らされていないことには同意すると発言した上でシステム構想に関するいくつかの論点で議論が交わされた。森信氏は、セーフティネットの整備だけでなく、社会復帰を促す政策を進めるためには、国家が所得を正確に把握する必要性があると強調。田氏は、社会保障制度に関するデータはもともと多くを役所が押さえているため、必要性がないのではないかと述べた。

 フロアからは、現場医療者の感覚ではマイナンバー制度がうまくいくとは到底思えないとの意見や、社会保障に導入されれば、使えない人・使い方のわからない人が排除されるのではとの危惧が出された。

 最後に会員から、「そもそもなぜマインバーが導入されようとしていると考えているのか。それからセキュリティ問題についての見解を教えてほしい」と質問が出され、森信氏は格差社会・グローバル経済の進行のもとで、新たな政策ツールが必要になる。公正な所得の上に社会保障が成り立つべきとすれば、番号制度は必要だ。セキュリティについては、今でさえ携帯電話の番号は個人情報保護対象から外れ、著しく漏れている。むしろ法律を通し、一層厳しく管理強化すべきと考える。

 一方、田氏はマイナンバーの目的はいかに歳入を増やし歳出を減らすかに尽きる。小泉構造改革の社会保障費削減の議論で番号制度の構想が出されており、この流れに今日のマイナンバー議論もある。セキュリティは確かに民間では野放し状態であるが、これをチェック・監視するシステムをつくる必要がある。行政の監視機関を都道府県単位等で作り、資金と権限を与える必要がある。ただし、これはマイナンバーの導入とは無関係にできるのではと述べた。

 閉会にあたり、鈴木副理事長は、今日の議論も踏まえ、協会としてのマイナンバー法案に対するスタンスを決めていきたいと述べ、締めくくった。

慎重派の黒田氏(左)と推進派の森信氏(右)

慎重派の田氏(左)と推進派の森信氏(右)

2012年2月に国会提出されたマイナンバー法案(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案)は、社会保障・税一体改革の柱の一つ。一体改革大綱に盛り込まれた総合合算制度(仮称)や高額医療・介護合算制度の現物給付化等、きめ細やかな社会保障給付の実現、正確な所得把握(それによる税負担)等に必要な基盤整備と謳われる一方、個人単位で給付と負担をリンクさせ、必要な医療・福祉の給付を抑制する、あるいは、国民監視システムではないかと危惧する声もある。法案は、11月の衆議院解散で廃案となり、国会審議は選挙後以降の国会に持ち越された格好である。しかし、解散前に自民・公明・民主の3党は法案成立に合意した経過もあり、今後の動向に注目が必要となっている。

ページの先頭へ