社保研レポート/ピロリ菌の積極的除菌を推奨/第646回(9/29)ヘリコバクター・ピロリ除菌療法の臨床的意義と保険適応について  PDF

社保研レポート

ピロリ菌の積極的除菌を推奨

第646回(9/29)ヘリコバクター・ピロリ除菌療法の臨床的意義と保険適応について

講師:古家敬三氏(古家医院院長・京都消化器医会副会長・社会保険診療報酬支払基金京都支部審査委員)

 講演された古家先生の前年に卒業しました小生にとりましても、プレパラートに付着したゴミや雑菌の混入と長年思われていた物が実は胃内に生息する細菌であったと知り、驚いたものです。

 胃内視鏡を1987年から始め、25年間(年間240例)施行しておりますが、胃癌の中でもピロリ菌が検出されない症例もあり、LG21を眠前に食べて貰ったら、鳥肌状胃炎や表層性胃炎が改善している症例を経験しておりますと、積極的除菌には二の足を踏んでおりました。

 しかし、徐々に慢性胃炎を進行させ、胃・十二指腸潰瘍、胃癌、MALT、及び胃外病変としての特発性血小板減少性紫斑病、小児の鉄欠乏性貧血、慢性蕁麻疹を発生させる重要な因子の一つであることが明らかになり、また除菌法も確立した現在では、積極的除菌を推奨するべきではと再考しておりました。

 その折に、京都消化器医会副会長をされる古家先生の社会保険研究会での講演が開催されました。

 以下、講演内容の抜粋ですが、ピロリ菌発見のエピソード及び、実は日本人研究者が60年以上前に猫の菌をウサギに移植して、胃潰瘍を発生させ除菌で改善させたという科学的検証も紹介されました。

 また、動物の胃内のみで増殖可能である菌が乳幼児期の両親や家族からの口―口感染及び、糞便中に検出されるcoccoidformが休眠状態から蘇生し感染を惹き起こす可能性も説明され、これが衛生管理の進んだ国やわが国においても若年で感染率が低くなる要因と考えられます。

 胃・十二指腸潰瘍の発症率もNSAIDsや低用量アスピリンでは19.4倍、ピロリ菌陽性で18.9倍、NSAIDs及びピロリ菌陽性で61倍となる結果も示されました。

 発癌にもピロリ菌のCagAやEGFR、癌抑制遺伝子の変異に、男性、喫煙、食塩摂取などの宿主因子がからんでいる。

 また、除菌による胃癌の1次予防は有意差なしであるも、自由診療内での除菌は意味があると考えているとのことでした。

 PPI、AMPC、CAMの3剤による1次除菌では除菌率70%であり、PPI、AMPC、MNZの3剤による2次除菌のみでは除菌率90%であるが、1次除菌と2次除菌を連続して行えば成功率は97%まで上昇する。それでも除菌できない数%の患者に対しては、保険適応外であるが、PPI、AMPCにLVFXやSTFXの3剤投与や、高用量のPPI、AMPC2剤を1日4回2週間投与等が考案されている。ただし、2次除菌では禁酒とワーファリンに注意が必要です。

 保険適応は胃・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌に対する内視鏡的治療後だけであることに注意。除菌前の感染診断に至った根拠及び除菌後の感染診断(投与4週間以上)の方法及び結果及び除菌終了日時もレセプトの摘要欄に記載しなければなりません。

 伏見医師会のHp±とPG±でA〜Dまでの4群に層別化したABC検診の説明もありました。A群(Hp-PG-):低リスクで精密検査不要、B群(Hp+PG-):中リスクで3年に1回の内視鏡検査、C群(Hp+PG+):高リスクで2年に1回の内視鏡検査、D群(Hp-PG+):最高リスクで毎年の内視鏡検査としたもので、2010年度と2011年度で4981人の検診受診者中2次精密検査受診者1013人中胃癌が21例発見され、そのうち20例は早期癌で根治可能であった。1次検診が血液検査のみで簡便・安全・低コストであり、胃癌の1次予防にも貢献できる検査方法であると説いておられました。この方法が保険適応になればと筆者も思っております。
(左京・西川昌之)

古家敬三氏

講師を務めた古家敬三氏

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