産婦人科診療内容向上会レポート
母体の糖・脂質代謝管理の必要性など解説
第44回産婦人科診療内容向上会を8月25日、京都ホテルオークラで開催した。東北大学病院周産母子センター准教授・杉山隆氏が「糖代謝異常合併妊娠の管理」と題して講演し、103人が参加した。
大島正義京都産婦人科医会会長、関浩京都府保険医協会理事長の挨拶に引き続き、山下元支払基金京都支部審査委員により「保険請求の留意事項と最近の審査事情」が、今年が保険点数改正年度という観点からも詳しく解説された。
次に、座長の京都府立医科大学附属病院産婦人科准教授の岩破一博先生より、杉山隆先生のご紹介が行われた。杉山隆先生は、関西医科大学のご出身で、2012年5月に東北大学病院周産母子センター准教授にご就任された。テーマは「糖代謝異常合併妊娠の管理」で、具体的かつ印象的な症例提示を加えられながら、妊娠中の母体の糖・脂質代謝の管理の必要性などについて詳しく述べられた。
妊娠糖尿病(gestational diabetes mellitus:GDM)の診断基準が2010年に変更され、これに伴いGDMの頻度は従来の約4倍に増加した。そのため、今後さらに妊娠中の糖代謝異常女性数が増加することとなり、さらなる注意喚起が必要となることは必至である。
現在の日本では万博をピークとして、数十年前よりも総摂取エネルギー量はむしろ減少しているにも関わらず脂質摂取量は増加しており、また車社会の到来で運動量は減少している。また、日本人の体質として、他民族よりインスリン分泌の不足・抵抗性が認められること、晩産化などが糖尿病を増加させる要因の一つをなしていると考えられる。
また、妊娠中の糖代謝の特徴として、非妊娠時に比して食後の高血糖・高インスリン状態が認められるにも関わらず、インスリン抵抗性のため期待ほど血糖値は減少しない。胎児の発育のためにはインスリン抵抗性はある意味合目的な生体反応ではあるが、行き過ぎることにより悪影響が生ずる可能性が上昇する。
GDMにより上昇する母体・周産期合併症としてはLGA、新生児仮死、分娩損傷、新生児呼吸障害・低血糖・先天奇形、PIHなど多数が存在するが、75gにおいて、空腹時血糖・1時間値・2時間値基準の1点のみが異常でも周産期合併症が有意に上昇し、2点以上の異常となるとそれに加えて産後の2型糖尿病の発症が有意に上昇する。そして、児発育はグルコースのみに支配されるのではなく、高血糖とあいまって母体の肥満がさらにLGAやPIHなどの発生率を上昇させる。なお、オーストラリアと米国で行われたrandomized control trial (RCT)にて母体の治療介入群(食事療法・血糖自己測定・インスリン療法)において治療非介入群(通常の健診群)より母体・新生児合併症が低くなること、母児共に予後も良好であることが示された。
したがってこれらの妊婦の管理としては、1点のみの異常であれば2次施設における栄養・食事管理メインの管理でも可能な場合が多いが、2点以上の異常、あるいは肥満症合併の場合などにはより高次の施設での管理が望ましく、妊娠中の母体の糖・脂質代謝の管理が母体だけでなく胎児の将来的な生活習慣病の予防にも大きく関与することなどを述べられた。
(右京・河野洋子)
講演する杉山隆氏