開業医にとっての社会保障・税一体改革/開業医医療の適正なる評価と憲法25条を体現した基本法こそ  PDF

開業医にとっての社会保障・税一体改革

開業医医療の適正なる評価と憲法25条を体現した基本法こそ

関浩理事長

理事長 関 浩

 8月10日可決、成立した社会保障・税一体改革関連法の中心は「消費増税法」、「社会保障制度改革推進法」の両案だが、推進法案は社会保障に関し、基本法の性格を持ち、自助・自己責任をベースに家族・国民相互で支えあうのが社会保障だとしている。医療・介護保険からの給付範囲を縮小し財源は広く集めた消費税で手当てするが、公費負担は極力削減の方向である。言いかえれば国や自治体は最期までは面倒を見てくれないということではないか。軽医療の保険免責制や混合診療解禁などの社会保障に逆行する個別法は、当事者参加が期待できないわずかな委員で構成する「社会保障制度改革国民会議」で決められる。これではまるで社会保障費の伸びを毎年2200億円ずつ削減しようとした、かつての「経済財政諮問会議」の復刻版、いやそれ以上の権限を持たせるものになる。推進法は、社会保障に対する公的責任の後退と営利産業化を敷くことを法律で定めるもので、生存権保障規定を定めた憲法25条(生存権)、13条(基本的人権)などにも抵触する恐れがある。

 一方、厚労省が描く医療・介護の将来設計には「高度急性期への医療資源の集中投入」、および在宅で医療・介護を必要とする人のための「地域包括ケアシステム」の構築が盛り込まれている。急性期と在宅医療の2極化に突き進むつもりだ。しかし、在宅ケアの担い手は権限拡大した看護職、介護職であり、開業医は、それらの職種が動き始める初期の指示出しだけしか期待されていないようだ。国は、在宅療養を支える医療機関を重視すると言う一方、専門性で患者に関わる開業医医療の力は、期待したくないようだ。日本の開業医は、高額な医療機器を導入してでも病院で行ってきた専門性を生かしつつ、一般診療も行うという形態が多い。専門家として治りやすい段階で「疾病の早期発見」を行い、かかりつけ医として仕事などの日常生活に支障がでないよう生活に寄り添って「慢性疾患を管理」していくという医療のあり方は、医療経済的にも国民経済的にも効率的で、望ましい医療の姿であるはずだ。

 急性期以降を担う中小病院の入院機能も評価されず、地域からそれらが消えていく。脳血管疾患などで一命を取り留めたものの、急性期病院からの退院が必要となり、途方に暮れた患者家族から相談を受け、開業医も困惑する事例が増えている。回復期のリハビリ病床は数・期間も限られ、療養病棟は国策により病床が減らされている。その結果、転院先を見つけるのが困難だ。介護保険施設も然りである。医療難民、介護難民の解決は急務である。この解決を国は「地域包括ケア」で図れというが、そのためには、開業医医療の適正評価、中小病院の拡充がなければ絵に描いた餅となるかもしれない。

 そしてなによりも医療をはじめとする社会保障の実施は、本来国の責務であり、国民が要求する基本的な権利を後退させることは許せない。そのためにも憲法25条の精神を体現し、社会保障に関わる諸法をしっかりと規定する本当の基本法が必要と思う。

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