常識と工夫67
患者さんへの返答はYes, No+I don’t knowで
すでに繰り返しお話ししていることですが、医事紛争に遭遇した患者さんは、医療機関側に対して「一体どう考えているんだ、白黒はっきりしろ!」と迫ってくることが往々にしてあります。要するに医療過誤を認めるか否か、あるいは賠償する気があるかないか(今後の医療費の支払いも含めて)の返答を求めてくるのですが、医療機関側も患者さんの状態が深刻であればあるほど、即答しなければならないと考えがちのようです。つまり、YesかNoかの二者択一を迫られていると思い込まれる訳ですが、実際問題として即答できない場合が多いのではないでしょうか。医療過誤を認めて患者さんに謝罪をする条件はすでにご紹介していますが、分かっていても、ついYesかNoの返事をして後で紛争が拡大する、といった医療機関がいまだに見られます。
そこで、患者さんへの返答は何もYesかNoの二者択一ではなく、I don’t knowを加えた三者択一と考えてみてはいかがでしょうか。I don’t knowなど、怒りを露わにしている患者さんに曖昧な返答が通用するはずがない、とお考えの医療機関もあるかと思いますが、実は意外に通用するものなのです。ただし、何故I don’t knowなのかという説明は必要不可欠です。以下にその理由と考えられるものを挙げておきます。?医療事故が発生していまだ時間が経っていないので全体像が把握できていない、?当該医療従事者個人の直感的な「感想」を述べるよりも医学的調査を十分にして医療機関として組織的に責任を持った返答をすることが患者さんへの誠意である、?結果論ではなく医療行為と患者さんの状態の因果関係を調査させてほしい、?調査をして必ず返事はするので今は患者さんの治療を優先したい。
以上は一例にすぎませんが、参考までに挙げました。各医療機関で工夫されれば結構かと思いますが、よくありがちな「即答することは(組織的に)禁じられていますので今はお返事できません」といった言い方はされないほうが賢明かと思います。あまりにマニュアル的な対応をしてしまいますと、患者さんの「癇に障る」ことが予想されますので、その点は注意して下さい。
次回は、医事紛争と刑事事件についてお話しします。