続 記者の視点19
医療扶助対策の焦点はどこか
生活保護の医療のあり方が議論されることが多くなった。自己負担がないから過剰診療や頻回受診・重複受診が起きている、医療費がかさんでいる、という。
確かに大阪市西成区などで見聞きする一部の診療所や病院の実態は目に余る。患者の勧誘、車の送迎付きの連日の通院、十数種類もの投薬、押しかけ的な往診……。福祉マンションが、入居者を顧客にしたい医療機関・介護事業者と契約してマージンを取る例もある。
西成区は、医療券を発行する通院先を原則1カ所とする「通院医療機関等登録制度」を8月から施行した。
自民党は、医療扶助への自己負担導入を打ち出した。
だが、問題の規模も調べないまま、一部のために全体に網をかぶせるようなやり方は弊害が大きい。
総額3兆円を超す生活保護費の半分近くは医療扶助だから、財政を考えた場合に注目するのは当然だが、焦点がずれていると思う。
受診先を機械的に制限すると、患者が医療機関を選ぶ権利が奪われる。問題のある医療機関にかえって固定化するおそれもある。
自己負担の導入は生存権にかかわる。少額の負担にして後から償還払いする方式にしても、最低生活費の切り詰めた家計の中からお金を出すことになる。受診の抑制によって病気が悪化することが懸念されるし、そうなると後から医療費がかさみかねない。
モラルハザードを生じているのは、受給者より、一部の医療機関の側である。レストランで食事するのと違って、患者は基本的に、好きこのんで医療をたくさん受けたいものではない。
統計を分析すると、外来診療は人数が多いものの、1人あたりの金額は小さい。大阪市の場合は月平均5万円台で、上昇する傾向もとくだん見られない。
外来の過剰診療や重複処方は、問題のある医療機関や患者を洗い出して個別の対策を取るのがスジだ。そして財政の観点より、患者の健康に害を及ぼす問題として対処すべきである。処方された向精神薬に依存が生じている患者や薬が多すぎると悩んでいる患者は多いので、相談に乗る薬剤師や看護師を置きたい。
一方、入院は月平均80万円近く(大阪市)もかかり、金額のケタが違う。身寄りのない生活保護の患者に過剰診療や劣悪な医療を行う病院も一部に存在する。支援者が病棟へ出向いて巡回相談を行うなど、患者の権利擁護と退院援助の仕組みを作りたい。
大阪市のデータを見ると約8年前からホームレス状態の人を中心に、入院患者を減らすことで、医療扶助費の膨張に抑えをかけてきた。
入院診療の内容をしっかり吟味し、社会的入院や長期入院を減らすほうが、人権擁護の面でも、自立支援の面でも、財政の面でも、はるかに効果的である。