記者の視点18/薬剤師の力を生かそう  PDF

記者の視点18

薬剤師の力を生かそう

 医学・医療が発展するほど現場でやることが増えるから、医師不足はなかなか解消されない。それをカバーしようと、一定の医療行為を自分の判断でできる「特定看護師」の導入が検討されているが、もっと注目してよいのは、薬剤師ではなかろうか。

 薬剤師は、薬学の専門知識も、医学の基礎知識も持っている。今春の卒業生からは6年間に及ぶ高等専門教育を受けている。

 だが、それにふさわしい役割を発揮できているだろうか。とくに調剤薬局は、政府による医薬分業の推進で大幅に増えたが、そこでの仕事にはりあいはあるのか。専門職の働き方として、もったいないと思う。

 調剤では、薬の種類や量を間違えないよう神経を使うが、実際に調合することはまれで、扱うのは既成の製剤が大半だ。患者への説明や服薬指導も形式的という印象を否めず、人間的なかかわりは薄い。

 最も重要なのは、安全確保のためのチェックだが、医師の処方せんには決定的な情報が欠けている。「病名・症状」がないのだ。それでは適応の確認も、使用禁忌・慎重投与の点検もまともにできない。結局、薬剤師は中途半端なチェック役に甘んじていて、医師への疑義照会も少ない。

 病院の薬剤部では医薬品の発注・管理、安全性情報などの収集・提供などが加わるが、これらは院内のバックアップ業務、裏方的な仕事だ。病棟で点滴薬の調合や入院患者への服薬指導を行う薬剤師は増えているが、これらも医師の下請け的な業務である。

 薬物療法の1次的な方針決定に、薬剤師がかかわるべきだろう。治療方針を決めるカンファレンスに出て意見を述べる、病棟や外来で医師と話し合いながら、どの薬を使うか決めていく。入院患者の回診もやって、薬の効き具合や副作用を確かめる。

 厚生労働省が2010年4月に出したチーム医療の推進に関する医政局長通知も、そうした業務範囲の拡大を求めている。

 緩和ケアの領域では薬剤師の関与が進んでいる。がんの化学療法、感染症治療、栄養サポートにも一部の病院では薬剤師がかかわっている。このほか多剤大量療法が横行する精神科では薬剤師がきちんと発言すべきだし、小児科も、子どもに使える薬に詳しい薬剤師がいれば助かるはずだ。

 医師のほうも、薬剤師をアドバイザーとして活用する意識を持ちたい。

 薬価差益が縮小し、薬局のチェック機能もあまり働いていない状況で、医薬分業を金科玉条にする必要はない。むしろ「医薬協業」の方向へ発想を転換したほうがよいのではないか。診療報酬による誘導で、診療所や病院の外来にも薬剤師の配置を推進してはどうだろう。

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