常識と工夫65/ 「たいしたことなくて良かったね」とは何事か!  PDF

常識と工夫65

「たいしたことなくて良かったね」とは何事か!

 ここで実際に起こった事故に基づいてお話をします。

 右足が完全に麻痺し、看護師に車椅子を押してもらっていた患者さんが、移動中に麻痺していた右足を車椅子の車輪に挟まれて切傷を負いました。何針か縫合する必要がありましたが、傷は順調に治癒していました。ところが、あるとき傷を負わせた看護師が患者さんに対して「麻痺した方の足で良かったね。痛くなかったでしょ、麻酔も要らなかったし、傷もたいしたことないようだし」と話しかけたそうです。それまで当該患者さんは大人しく、必要以上に怒りを表面化することもなかったので、その看護師は気を緩めてしまっていたのかもしれません。しかし、少し冷静になってこの発言を考えると、とても失礼な話であることは明らかでしょう。また、患者さんは、この看護師は全く反省の色がないと見ることでしょう。実際にその一言の後に患者さん側は態度を硬化させ、医療機関側の責任を追及するようになりました。

 ここで改めて言うまでもないことかもしれませんが、この事例では明らかに加害者は看護師、すなわち医療機関側で、被害者は患者さんです。加害者が被害者に対して「たいしたことがなくて良かった」と発言するのは不適切です。事の大小は事故に遭遇した患者さん側が判断することと認識して、事故後の対応を考えるべきでしょう。

 主に大病院に見られる傾向として、例えば医師が起こした事故に対して、看護師が患者さんに同様の発言をすることもあるようです。患者さんにしてみれば、加害者は当事者のみならず医療機関全体と捉えている可能性があります。こうした認識を持つことで、患者さん対応にも一層の注意が促されると考えます。その際に前提条件として、院内で事故に遭遇した患者さんを(可能な限り)職員全員が把握する必要があります。医療機関内の全科にわたるネットワークが重要なポイントとなるでしょう。

 次回も、患者さんが「癇に障る」一言についてお話しします。

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