常識と工夫64
「歳が歳だから…」
医療過誤の有無は別として、高齢患者さんに医療事故あるいは施設事故(転倒骨折など)が発生した場合、患者さん本人もしくは家族の方から、過激とも思われる責めを受けることがあるようです。その際に担当医師や看護師の中には「できるだけの注意はしていたんですよ。でも、お歳がお歳だったから…」とおっしゃる方もいるようです。多忙をきわめる医療従事者からすれば「つい本音」が出たのかもしれませんが、すでに被害者意識を持っている患者さん側からは逃げ口上、あるいは責任転嫁の発言と取られかねないようです。
そこで患者さん対応の工夫として、仮に高齢に起因する事故であったとしても、患者さんの年齢に言及するのは避けたほうがよいと思います。医療従事者の正当性を示すには、患者さんの年齢を引き合いに出すよりも、事故が発生した時点での状況・管理体制、場合によっては医療現場の限界などを説明するほうが、第三者がみても説得力があるからです。
また、高齢患者さんだからこそ、より注意をしなければならないこともあります。同じ事故でも患者さんが高齢であったために、(一部)有責と判断せざるを得ないケースもあるからです。つまり「歳が歳だから」医療機関側は免責になるのではなく、「歳が歳だから」一層の注意義務を課せられることも十分に考えられるのです。
医療事故がマスコミ等で取り上げ続けられているためか、1990年代後半頃から、それ以前にはほとんど見受けられなかった医事紛争が発生している様子が窺われます。90歳代末期癌の患者さんが、助かる見込みは少なかったにしても医療機関側の説明がたりなかったために、精神的苦痛を受けたと訴訟を申し立てるケースも、実際に京都で数例起こっています。その背景には医療・医学の問題以前に、医療従事者と患者さんの人間関係がひそんでいたことも想像できます。21世紀に入り、医療従事者も意識の改革を迫られているといってよいでしょう。
次回も、患者さんの「癇に障る」一言についてお話しします。