小児科診療内容向上会レポート
「衛生仮説」とアレルギー疾患予防の可能性
小児科診療内容向上会が3月31日、京都小児科医会、京都府保険医協会と日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社の共催で開催された。京都小児科医会理事の川勝秀一氏から「新点数の留意事項と最近の審査事情」について解説。国立病院機構京都医療センター小児科医師の鶴田悟氏より「アレルギー疾患は予防できるか?『衛生仮説』のその後」について講演があった。
喘息は気道の慢性炎症であるという考えからステロイド吸入療法や抗アレルギー剤による管理が一般化し、われわれ小児科医は以前のような重症の喘息発作に遭遇する機会は激減した。しかし、その後、吸入ステロイドは喘息の自然経過には影響しないという論文が発表され、喘息に対する根本的な対策は、むしろアレルギー体質そのものの予防に注目されている。今回の鶴田悟先生のご講演はアレルギー疾患の治療戦略の根本に関わるもので、「衛生仮説」にアレルギー疾患予防の可能性を求めた興味深い内容であった。
「衛生仮説」とは、1989年にイギリスStrachanらにより発表されたもので、乳児期にいろいろな微生物に触れ、刺激を受けることで免疫系が学習し、成長していくという考えである。筆者が初めてこの仮説を知った時それなりの説得力を感じたものだが、抗原を回避するためには衛生的な環境が好ましいと考えていた当時の専門家にとって衝撃的な学説であったことだろう。
この仮説が当時支持されたのは疫学的事実からだけでなく、免疫学的に説明可能であったからだという。非衛生的環境では細菌などが自然免疫系により認識され、自然免疫系の活性化を通じて調節性T細胞(Treg)の発達が促進された結果としてTh1/Th2のバランスがとれ、過剰な免疫も抑制される、という解釈である。
衛生仮説に対する反論も多くあり、現時点ではアレルギー疾患の急速な増加の原因はいまだ不明のままである。衛生仮説はアレルギー予防に対して重要な理論的根拠となりうるが、アレルギー疾患の発症には複雑な遺伝的背景も関与しており、単純な衛生仮説の解釈による発症予防の試みはしばしば失敗に終わっていることも事実である。
最後に鶴田先生は、「一般に推奨できるだけのアレルギー予防法が確立するためには、自然免疫が如何にして正常なT細胞の分化を誘導するかなどのブラックボックスの解明が重要である」とまとめられた。アレルギー疾患は小児科医にとってもっとも身近な疾患の一つであるが、その攻略にはまだまだ解明されるべき点が多く残されていることを印象づける講演内容であった。
(西陣・長谷川 功)
小児科診療内容向上会のもよう