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【改訂版】医療安全対策の常識と工夫59

「前医批判」の正体?

 医事紛争に遭遇された患者さん側の話を聞いていると、時に「転院先の○○病院の先生が『事故当時に受けた当該医療機関の治療は間違っている』と言っていた」と、我々に報告されることがあります。京都府保険医協会としてもそのような発言について、毎回事実確認ができる訳ではないのですが、確認できた場合は必ずといってよいほど、その転院先の医師(後医)は「そのようなことを言った覚えはない。患者さんの誤解でしょう」と仰います。これは一体どうしたことでしょう。実のところ、当事者でない協会に確認するすべはないのですが、患者さんもその後医も明白な、あるいは意識的に嘘を言っているとは思えないのです。

 協会が調査を進める中で、しばしば耳にするのは後医が患者さんに対して「何故、もっと早く来なかった、こんなになるまでほっといて」とか、「もう少し早く来て貰っていれば…」と(無意識に)話していることです。後医はその患者に前医がいたことを確認していなかったのかも知れませんが、言われた患者さんにしてみればその一言が明らかな「前医批判」と解釈することが多いようです。まさにこれこそが患者さんと後医との認識のズレでしょう。

 医療安全対策に早くから力を入れていた、ある院長がかつて我々にこう仰ったことがあります。「患者さんに『もっと早く受診していれば…』などと言う後医は、果たしてどうなのでしょうか? この言葉に隠されている意味は、自分はこの患者さんに対して治療する自信がない、というばかりでなく、患者さん本人のことをもはや考慮に入れていません。自信がないなら上司に相談するか、高次医療機関を紹介すればよいのであって、患者さんを徒に不安がらせるのは何の意味もありません。つまり『もっと早く受診してくれれば…』というのは、その後医の配慮の無さや保身の姿勢をそのまま露呈することなのです」

 この発言はあくまで院長個人の私見であり、その是非については、ここでお話しすることではありません。しかしながら、協会の経験から言うと、少なくとも先に述べた後医の発言が、医事紛争の発端となっていることは事実であり、残念ながらその数は少ないとは言えません。

 次回も、引き続き前医批判についてお話しします。

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