環境問題を考える113/怖い遺伝子組み換え技術  PDF

環境問題を考える113/怖い遺伝子組み換え技術

 昨年11月には野田政権がTPP参加を表明しましたが、カロリー自給率39%が13%に低下するといった農産物の問題だけでなく、TPPの中身にはすべてのモノやサービスなどの自由化と緩和・競争が盛り込まれています。食品や医薬品の安全基準の大幅緩和により、私たちのいのちや健康にも大きく関わっています。食料への影響も大きく、アメリカで生産されている遺伝子組み換え大豆、菜種、トウモロコシが大量に押し寄せてくることは明らかです。アメリカでは、約120種が商業栽培を認可されており、米国学術研究評議会(NRC)は、現在アメリカで栽培された大豆、トウモロコシ、ワタの約80%は遺伝子組み換え体との調査結果を発表しています。遺伝子組み換え作物(GM作物)の商業栽培を行う国は年々増加し、今や世界25カ国で普及しています。わが国では、どれも加工食品の原料や飼料用で8作物、168種の販売流通が認められています。しかし、多くの消費者は、GM作物を口にしているという実感を持っていません。

 昨年12月米国ハワイ産の「レインボー」という品種で、遺伝子組み換えパパイアの輸入が認められました。丸ごと生で食べるGM作物はこれが初めてです。GM作物はどれも自然界に存在しない新たな有用植物を生み出せる反面、人体や動物、生態系への影響が懸念されています。厚生労働省は「実質同等性」という概念で、従来の食品と変わらないとしています。しかし長期に摂取したときの慢性毒性、アレルギー誘発の可能性、安全性については十分な確認がされていません。環境や生態系についても、交雑による除草剤耐性の獲得、土壌微生物やミミズの減少、ミツバチやテントウムシの寿命短縮などが報告されています。GM作物が輸送中にこぼれ落ちて、自生が広がり、多種との交雑により問題を起こしている地域も多くみられます。また作物の「種子」を独占し、除草剤、殺虫剤とのセットでGM作物を売りつけるモンサント社やデュポン社のような巨大企業の農業、食糧支配の可能性も指摘されています。現在、世界農地の約10%にGM作物が栽培されています。

 最近では遺伝子組み換え動物の開発も盛んで、1999年11月25日のNHK「クローズアップ現代」にその一部が放映され、視聴者に大きな衝撃を与えました。砂糖水を軽油に変える細菌、成長が早く、普通のサケの2〜3倍の大きさになるサケ、光る絹糸や人工血管の材料を作り出すカイコ、光る熱帯魚・ペット、アレルギーを発症しないネコなど。実験だけでなく商品化も一部はされており、その種類や分野は多く、歯止めがきかない状態です。現在の遺伝子組み換え技術は「不完全」で、生物の細胞から遺伝子を切り取ることや、生物のの遺伝子を合成できるようになりましたが、肝心の「取り込み」については、人間は制御できません。「組み込み」は生物まかせです。遺伝子セットがどこに入るか、いくつ入るかは全部偶然に頼っています。遺伝子組み換え生物は、一度作り出され、環境に放出されれば生物として増殖を続ける可能性が存在します。アメリカのクレイグ・ベンダー博士のグループは100万個を超える遺伝子の配列をコンピュータで設計し、増殖できる人工生物(細菌)を作り出したと発表しています。今や遺伝子組み換え技術は、これまでの生物界になかった生物を創出するに至っており、もはや人間の手から離れ、一人歩きする可能性を秘めています。ある意味では、遺伝子組み換え技術は人間が開発しながら、制御できなくなった核爆弾や原発と似ています。

 2000年1月に遺伝子組み換え生物の使用による生物多様性への悪影響を防止することを目的とした「カルタヘナ議定書」が国連で採択されました。わが国では、03年6月に「カルタヘナ法」が成立・公布、04年2月より施行されています。しかし、世界で最大GM作物輸出国のアメリカがこの条約に批准していないことは最大の問題です。

 「多くの人は科学技術のよい面ばかり見て、それが予期せぬ悪い影響を考えません」(ジャレド・ダイアモンド)。私たちはすでに、放射能汚染や気候変動など地球環境破壊の数多のつけを次世代に回してしまいました。もうこれ以上のつけを回さないためにも、環境・人口・水・食糧問題、グローバル化による格差・社会問題などへの関心を高め、日常の生活でささやかながらも地球・世界環境改善の具体化に取り組むことが大切です。
(環境対策委員・山本 昭郎)

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