【改訂版】医療安全対策の常識と工夫58
医療費免除を要求されたら
診療の結果に満足が得られなかった場合、患者さんの方から医療費免除を要求してくることもあろうかと思います。患者さんの中には「世間一般の常識として、お金を払って不良品を買わされたり、修理に出したものが直らなかったら返金して貰うのが当たり前でしょう」と仰る方もいるようです。いわゆる「医療消費者」としての権利意識なのでしょう。医療従事者の方ならばお気づきと思いますが、この患者さんは医療を他のサービス業と同一視しているという見当違いをしています。医療には他の職種に類を見ない特殊性がありますし、法的にみても医療行為の結果を保証する請負契約を、医療機関側と患者さん側で取り交わしている訳ではないのです。医療機関側のすべきことはあくまで患者さんを診療することで、医の倫理や医師個人の信念は別として、完治させるところまでは法的義務がないのが現実です。こういったことからも、結果の良し悪しや患者さんの満足度で、医療費免除の要求に応えるのは不適切なことなのです。また、患者さんが医療費免除のみで納得するか否かも、その時点では分からないことも多いのではないでしょうか。医療費免除を了承したら、そこから更なる要求が出されることも珍しくありません。
そこで、実際に患者さんから医療費支払いを拒否された場合の対処法ですが、先ずは諦めずに請求書を必ず作成・保存しておいて下さい。それから、医療過誤の有無の確認となりますが、何度も言うように、その時点で明らかになっていない場合は、調査を終えて過誤のあることが明白となった時に、賠償責任の度合いに応じて返還することを確実に伝えて下さい。医療機関としては誤魔化すつもりではなく、過誤がない限り結果の如何を問わず、健康保険法74条【一部負担金】で医療費は徴収することになっていることも、併せて伝えればより説得力も増すでしょう。「○○さんのお気持ちは十分理解できますが、とにかく法律違反をする訳にはいかないのです。後のことはきちんと整理して、必ず医療機関としての見解をお伝えしますので、取り敢えずでも医療費をお預けいただけませんか」とお願いしてみるのも、あながち無駄とも限りません。実際に多くの医療機関でそのように対応して、何とか医療費を徴収しているのが現状です。僅かな医療費だからまあいいか、と軽んじることなく、患者さんの不平・不満には金銭でなく、きちんと医療・医学的に応えていくのが、医療機関側の「誠意」となり得るのではないでしょうか。医療費即ち診療報酬は、決して「成功報酬」ではないのです。
次回は、紛争の隠れた原因となり得る前医批判についてお話しします。