【主張】原点に立ち返り真の社会保障に相応しい改革の議論を  PDF

【主張】原点に立ち返り真の社会保障に相応しい改革の議論を

 「社会保障と税・一体改革」が閣議決定され大綱が発表された。野田政権の中心課題として開会中の通常国会にいくつもの関連法案が上程される予定である。

 これに先だって、今年は医療と介護報酬の同時改定の年にあたるが、注目を集めていた改定内容が先ほど発表され、診療報酬、介護報酬の何れも、この「一体改革」の示すあり方を先取りした形となり、医療現場・介護現場に不安が拡がっている。

 「改革」で強調されているのは制度の持続可能性であり、これからの医療・介護の目指す方向は「地域包括ケアシステム」を構築し、自助共助によるそれぞれの地域における住民同士のお互いの助け合いである。「国民の自立を支え安心して生活ができる社会基盤を整備する」のが社会保障だという。

 我が国の高齢者福祉の原点は1963年に制定された老人福祉法であり、その基本的理念は「老人は、多年にわたり社会の進展に寄与してきた者として、かつ、豊富な知識と経験を有する者として敬愛されるとともに、生きがいを持てる健全で安らかな生活を保障されるものとする」、そのために「国及び地方公共団体は、老人の福祉を増進する責務を有する」と規定されている。しかし、「一体改革」が2025年という具体的な時期を定めて描いてみせる社会保障の将来像は、国民の期待する姿からはほど遠く、とても安心できるようなものではない。

 我々の分野である医療・介護のイメージは、高度急性期へ医療資源を集中投入し、地域の病院の役割分担が進み、発症から入院、回復期、退院までスムーズに連携が行われ早期退院、社会復帰が可能になる。退院したら、自宅やケア付き高齢者住宅に住んで、24時間対応の訪問看護や介護サービスを受け、地域の老人クラブ・自治会などから生活支援がなされ、自立をめざして介護予防に励みつつ在宅生活を送るというもの。

 「寝たきりをつくらない」ことは大事だ。元気に住み慣れた自宅で最後まで安穏に過ごせたら幸せだと思う。しかし、80歳、90歳にまでなった人にいつまで自立を強要できるのだろうか。独居、老老の高齢世帯ばかりが増える地域で、自助共助の支え合いって、いったい誰がやってくれるの?

 年を取ったら誰かのお世話にならないと生きられない。生まれたときから自立できない人もいる。「一体改革」がいう自立前提の社会保障の考え方は間違っている。まず増税ありきの議論を先行させることなく、真の社会保障に相応しい改革の中身をしっかりと議論しなければならない。

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