医療安全対策の常識と工夫52
曖昧に捉えてはいけません!「示談」という行為
裁判所を介さずに、医療機関側が賠償責任を認めた医事紛争を話し合いで解決・終結するには、基本的に示談書を残しておくことが必要になります。しばしば思い違いされるのは、示談書というものが公文書かそれに近い位置づけで、然るべき第三者が作成しなければならない特別な文書という誤解です。示談書はあくまで医療機関側と患者さん側との二者間での確認事項が記されたものですから、ワープロで自前に作成しても法的には全く問題はないのです。ただし、京都府保険医協会に報告された案件の示談書については、念のため協会顧問弁護士に助言をいただきます。示談の要領を得ない方は、不備をなくすためにも自分で作成しない方が賢明でしょう。
示談書は医療機関側と患者さん側の契約書であるともいえます。つまり医療事故について賠償などの対応をして「示談日限りのもの」として終結するわけです。それ故、一般に示談日の翌日以降については、患者さん側と約束事をしないのが基本です。示談書に両者が印鑑を押して署名をした時点で、債務・債権は消滅します。簡単に言えば、賠償問題に関して両者は一切関係がなくなるのです。
ところが、示談後に患者さんから「取り敢えず示談はしたが、また身体の具合が悪くなった。あのときの事故が原因に違いない」と再度のクレームが付くことが稀にあります。本当に当時の事故に起因する、不測の後遺障害ならば再対応すべきでしょうが、ほとんどの患者さんは思い込みや示談の意味をよく把握していなかったことから、そう言ってくることが多いようです。示談は終わっているのですから、医療機関側としてはまず、現在の患者さんの症状と事故の因果関係を確認して、明らかに医学的因果関係が認められない場合には再対応する必要はありません。毅然とした態度で拒否すべきでしょう。医療機関側にとって「取り敢えず」示談、ということはないのです。
次回も引き続き、示談に際しての心構えについてお話しします。