続 記者の視点(11)
生活保護の急増は、社会経済政策の結果だ
読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平
生活保護の受給者が今年7月の速報値で205万人を超え、1950年に現行の生活保護法が施行されて以来、最多になった。
だが、この数自体は大したことはない、と最初に強調したい。人口比で見た保護率は1・6%で、過去最多だった51年の2・4%より低い。
他の先進諸国の公的扶助の受給率はもっと高い。国ごとに制度が違うので単純には比較しにくいものの、日弁連によるとドイツ9・7%(09年末)、英国9・3%(10年8月)、フランス5・7%(10年9月)。厚労省の海外情勢報告を見ると米国や韓国も、日本よりはるかに受給率は高い。
日本は貧困が少ないわけではない。相対的貧困率はOECD(経済協力開発機構)加盟国の中でメキシコ、トルコ、米国に次いで4番目に高い(厚生労働白書10年版)。
一方、貧困の捕捉率(保護基準以下で暮らす世帯のうち、どれだけ保護を受けているか)は、所得のみで見ると15%、資産を考慮しても32%にとどまる(07年の国民生活基礎調査をもとにした厚労省の推計)。
こうした指標から考えると、生活保護はもっと利用されてよい。申請の際の資産要件の厳しさ(現金・預貯金が保護基準の1カ月分未満)、広範囲に行われる扶養意思の照会、恥の意識などによって、「健康で文化的な最低限度の生活」より低い水準で暮らす人が多いことこそ問題だ。
とはいえ、90年代後半から続いている生活保護の増加は、好ましい状況ではない。それだけ貧困層が増え続けていることを意味するからだ。
増加の主因は、はっきりしている。1.低年金・無年金で資産もない高齢者の増加、2.長期失業者・ワーキングプアの増加、である。
95年以降、日本の経済規模を示すGDP(国内総生産)は、名目で横ばい、物価水準を考慮した実質GDPで微増。成長はしていないが、マイナスではない。
それでも貧困層が増え続けたのは、富の偏在が進んだからだ。非正規雇用の拡大、賃金の切り下げ、医療費や保険料などの負担増の一方で、法人と富裕層への課税は大幅に緩められた。
そのうえ社会保険や社会手当の不備が大きければ、最後のセーフティーネットである生活保護が増えるのは当然だ。社会経済政策の結果を、社会で受け止めているだけのことである。
根本対策は明らかではないか。格差を広げた労働・社会・経済政策を改め、年金や失業給付など、生活保護の手前で受け止める制度の拡充と、富の再配分にシフトしないといけない。
ところが11月23日に行われた行政刷新会議の事業仕分けでは、年金に比べて高いとして生活保護基準の切り下げの検討を求め、医療扶助についても自己負担(償還払い)の導入の検討まで打ち出した。
制度利用者の声も専門家の意見も聞かず、わずか2時間ほどの素人談議で大事な方向性を決めてしまう粗雑さ。パフォーマンス主義の乱暴な政治に驚く。
医療扶助の自己負担がどんな事態を招くか、火を見るより明らかだ。受給者の自立支援にしても、公的雇用の提供など、真剣に考えるべきことはほかにある。