今なぜ、社会保障基本法・憲章か 出版記念シンポジウム開く
協会の進めてきた社会保障基本法制定運動の中で『新たな福祉国家を展望する―社会保障基本法・社会保障憲章の提言』(旬報社)が10月1日発刊された。これを記念してシンポジウムを10月15日、ハートピア京都で開催した。第1部は「構造改革」による各現場の混乱や課題について、(1)介護=北尾勝美氏(社会福祉法人健光園)、(2)障害福祉=西村直氏(きょうされん京都支部副支部長)、(3)保育=井手幸喜氏(京都保育運動連絡会事務局長)、(4)医療=津田光夫氏(京都府保険医協会理事)、(5)雇用=辻昌秀氏(京都総評副議長)―の5氏が報告。第2部は、竹下義樹氏と渡辺治氏が社会保障基本法・憲章の意義について講演した。
第1部は社会保障の各現場が抱える問題を報告。
介護分野について北尾氏は、「尊厳と保持」「自立(自律)支援」という理念が根付き、地域密着サービスが広がったことは成果だが、介護認定と支給限度額というハードルが課せられ、介護の社会化といいながら家族介護に頼る現実があり、公的責任の後退が起こっている。さらに互助への過度の期待を前提に地域包括ケアが導入される。公的責任のもと安心・安全な社会を求めたい、と報告。
障害分野について西村氏は、構造改革で財政論優先の自己責任論を振りかざした制度改革が持ちこまれた。運動の力で政権交代時にそれをやめさせる合意をし、歴史的な変化をつくろうとしている。この成果を他の社会保障全般の拡充にどう教訓化していくかが問われている、と述べた。
保育分野について井手氏は、児童福祉法により、まだ福祉が根付いている分野だが、これが「子ども・子育て新システム」により壊されようとしている。公的責任から自己責任へ変更しようとするもので、本当に保育が必要な子どもたちが排除される危険性がある、と指摘した。
医療分野について津田氏は、国民皆保険を支えてきた3つの特徴、(1)すべての国民に保険給付を約束する「保険証の全国民対象無条件交付」、(2)全国一本の診療報酬制度による「全国統一給付保障制度」、(3)「必要充足型給付保障制度」―が危機に晒されている。TPPを利用した民間保険や混合診療の拡大、受診時定額負担導入などの目下の攻撃にも、25条を基に攻めの運動を進めることを述べた。
雇用分野について辻氏は、非正規雇用の増大と低賃金が雇用の「劣化」を招く。それは貧困拡大の温床、少子高齢化の一因や需要低下による経済悪化の要因ともなる。税収減少、社会保険料収入の減少につながり制度維持の破綻につながる。これに対抗する労働運動が大切だと報告した。
弁護士の竹下義樹氏は、第1部で報告がされたような個々の分野で人権救済のため多くの裁判が闘われている。問われているのは救済ではなく予防であり、必ずしも制度の変更に結びつかない限界がある。社会保障基本法・憲章で憲法25条の具体化をし、制度づくりに結びつけていかねばならない。その原動力となるのは現場からの声である、と講演した。
これらを踏まえて最後に講演した渡辺治氏(一橋大学名誉教授)は、構造改革政治に対抗する新たな福祉国家構想の基本としての社会保障基本法・憲章の意義を説いた。
民主党政権は政治が変われば福祉は変わるという国民的経験を与えたが、鳩山政権から菅政権、野田政権で構造改革に逆戻りしてしまった。それは構造改革に代わる国家のあり方を構想できなかったことから財源攻撃に屈服したためだ。また3・11後の復旧・復興には構造改革政治の停止と福祉国家型政策が不可欠。だが、民主党政権は構造改革型復興構想、一体改革構想を打ち出す。それに対して、社会保障運動は各分野の連携が難しいことから、その連携の克服なしには各個撃破される。これらを背景に福祉国家型対抗構想が求められている。
その構想の柱は、(1)憲法25条が私たちの保障している雇用保障と社会保障の体系、(2)福祉を保障し、消費税を引き上げなくてもよい安定財源の確保、(3)大企業本位でない、地域と中小企業が中心の経済成長政策、(4)脱原発、原発にかわるエネルギー政策、(5)福祉国家型の真の地方自治と民主的な国家、(6)日米安保体制のない日本の安全とアジアの平和(憲法9条を生かす日本を)―の6つ。3・11後のこの国で、新自由主義からの訣別をするのか、再起動の出発点としてしまうかは我々の運動が決定的に重要だと締めくくった。
※新春号に第2部の再録を予定。