シリーズ 環境問題を考える(110)
台風12号による土砂崩れのニュースを見て
大峰の山を歩いたときの様子を思い出しました。洞川から上がっていくと、周りはすべて植林された杉林です。ブナなどの広葉樹林の樹林帯から登山道が始まるアルプスの登山とは、まったく様子が違うのです。近畿の日帰り登山では、杉の木の植林帯から始まるのは日常なのであまり気に留めていなかったのですが、今回多くの被害が出て、その映像を見ると改めてそのことが頭をよぎります。
実際、今回被害の大きかった十津川は林業の村で急峻な地形です。明治時代にも大きな洪水があり、集団移転まで行われている場所です。しかし、そんな村においても、ほかに産業がないために、やはり、よそと同じように林業振興政策が図られ、多くの木材生産が行われています。これまで地元の人々を支えてきた林業かもしれませんが、皮肉なことに、この林業振興政策が、多くの住民の命を奪う結果となりました。十津川村は林業に向かない場所でした。これまでは良かったかもしれませんが、スギが年齢を重ねて大きくなり、急峻な山々では、大雨の被害は甚大になります。
土砂崩れはスギ植林地の山では、大雨のたびに、どこでも頻繁に起こっているのですが、人間に被害がないために報道されていないのです。国有林の中でも大きな土砂崩れは、たくさん起こっていますが、林業関係者しか通行しないところが多いので、隠されています。手入れをされていないスギ木材生産地では、木材も育っていないし、保水力もなく、生物も棲むことができません。挿し木のスギは、小さい頃はほとんど崩れることもなく、たとえ崩れても小さくて済みますが、植林して年数が経てば経つほど、強風や大雨で倒木しやすくなり、大きな災害をもたらすことになるのです。
戦後植林されたスギの木が、45年以上を経て、日本じゅう、どこの山間部も危険がいっぱいです。平坦な山はまだいいのですが、十津川のような急峻な山々では、林業=木材生産を低地部分にとどめるべきでした。
日本の国土は変化に飛んでいる分、急な自然災害が甚大な被害をもたらし多くの命を奪います。災害に強い森作り(緊急防災林整備、里山防災林整備など)を緊急に推進していかなければならないことを政府は認識すべきです。
(京都府歯科保険医協会 理事・平田高士)
台風12号被害報道より