医療安全対策の常識と工夫(45)
あります!医療・医学以外にも紛争の火種
医事紛争を複数に経験した医療機関の中には「もう二度と紛争を起こさないように、専門医や正看護師を更に雇って、より高度な医療に対応できるように努力します」と、我々に事後報告をして下さることがあります。その医療機関なりに反省をして、一層の医療安全対策を講じようとしていることは十分に理解できるのですが、一方で我々は、その言葉を聞いて若干の不安を抱くこともあります。どういうことかと言いますと、その医療機関が医療技術の面にしか目を向けていないからです。
確かに「医療事故」は、従事者の技術的能力が向上すれば、確実に減少していくでしょう。しかしながら「医事紛争」はどうでしょうか? 既にお話ししたように医療事故と医事紛争は同様ではありません。医療機関として先ず医療技術の向上を考えるのは当然かつ必要なことなのですが、医事紛争は医療技術の格差で発生しているとは限らないのが現状です。
典型的な例をいえば、院内連係の不備が挙げられます。医療従事者個々の能力に問題がないにも関わらず、患者さんのデータや薬剤の取り違いは起きています。特に病院では、一人の患者さんが複数の診療科をまたがって受診することも珍しくはありません。同姓同名の方がいるかも知れません。人や物の管理体制はもはや個人の努力と資質だけでは十分でないと思われます。組織そのものが如何にシステムを構築するかにかかっていると言っても過言ではないでしょう。医療機関の責任者は医療技術の向上とともに、是非とも医療安全の発想を持ち、実践していただきたいものです。京都府保険医協会も、その実践に積極的に協力していきますので、相談事があればいつでも連絡を下さい。
次回は、インシデントレポート(ヒヤリハット報告)についてお話しします。