社保研レポート/感染症の診療と対策を解説
第640回(5/14)感染制御の真髄―感染症診療と感染対策―
講師:京都市立病院機構感染症内科部長 清水恒広氏
講演する清水恒広氏
最近、生肉や団子(なんで団子なのか?)による重篤な集団中毒事件がマスコミ紙面をにぎわせているなか、時宜を得た講演であった。
56年間外科医をやってきた私には、感染対策は日常茶飯事のテーマであったが、最新医療の中でどのように取り上げられているのか、興味津々のテーマでもあった。
お話をうかがって、老医にとっても「目から鱗…」の話もあり、「なんだこれは…」の疑問点もありで、以下耳に残ったことを箇条書にしてみた。
感染症か否か
発熱、白血球増加、CRP高値をイコール感染症として広域抗菌薬を投与する(演者はこれを「発熱、白血球数、CRP依存症」とおっしゃる)のではなくて、経過を観察しながら細菌学的検査を進めるべきである。
風邪と上気道感染症との区別
開業医は「感冒・上気道炎」の病名ですぐに抗菌薬を投与する傾向がある?が、感冒そのものはウイルス病原体が原因で抗菌薬は基本的に全く無効。安静、解熱剤投与、経過観察でよい。上気道感染症とは単なる咽頭炎だけでなく、溶連菌感染症から扁桃周囲膿瘍、中耳炎に及ぶ奥の深いもので、細菌学的検査による投与抗菌薬の狭域化を考えるべきである。
3つの感染経路
A接触、B飛沫、C空気(飛沫核)に大別されるが、Aは手指、口、傷、セックス、Bは咳、くしゃみをする時素手でおおわない(ハンカチ、ティッシュがないときは服の袖でおおう)、Cのマスクはポケットにしまわない、何回も使わない(演者は「ポケットは微生物の巣窟」とおっしゃる)。
感染対策としての手洗い
演者は「医療の現場は手洗いの場である」とおっしゃる。全く同感だが、私は外科医であっただけに手洗いというとブラシで肘までこする手術時のイメージが強く、一般的な意味でよい勉強になった。
「患者周囲環境は微生物の巣窟」という概念から、(1)患者に近づく前、(2)患者に触れる前、(3)体液などに触れたあと、(4)診察、処置のあと、(5)患者周囲環境(病室)から離れたあとの5つのタイミングで手指衛生(手洗い)の必要がある。これだけ頻繁な手洗いをするには速乾性擦り込み式消毒剤が必要なことは理解できる。
そこで初歩的なクエスチョン。講演の最後にビデオによる「手洗いダンス?」が放映された。複数の男女が音楽に合わせてブレイクダンスのフリで携帯用消毒剤のポットをポケットから出して手に擦り込んでポケットに戻す。はて、ポケットが「微生物の巣窟」とすれば手洗いをすませてポットをポケットに戻す時、折角消毒した手が再び汚染されないための工夫はどうするのか、ビデオのダンスが手品のように見えたのは私の老眼のせいだったのか?
(北・北小路博央)