続・記者の視点(5)
読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平
一部負担金減免制度を活用・拡充しよう
隅っこに追いやられていた制度に、にわかに光が当たり始めたようだ。
東日本大震災が発生した後、厚生労働省は、被災者・原発事故避難者の医療費の自己負担分(一部負担金)の徴収猶予を決めた。実質的には免除になる。
適用される被災者の範囲が限られている点に問題があるが、この措置自体はべつだん超法規的なことではなく、すでに法律にある規定の発動を促したものだ。
災害だけでなく、ふだんから活用してよい制度だと思うし、いろいろなアンバランスや不備をただして制度を拡充する必要がある。
健康保険法75条の2は「災害その他の省令で定める特別の事情がある被保険者」に、保険者が一部負担金を減額、免除、猶予できるとしている。ただし同法施行規則は特別の事情を災害に限定している。高齢者医療確保法もほぼ同様だ。
一方、国民健康保険法44条は「特別の理由がある被保険者」に対する一部負担金の減額・免除・猶予を認め、適用の判断を保険者にゆだねている。取り扱い要綱や規則を定めた市町村の多くは、災害のほか、不作・不漁・事業の休廃止・失業などによる収入減少も対象にしている。
ただ、適用基準は市町村ごとにまちまちで、そもそも要綱を作っていない市町村もある。また申請主義なのに、制度の周知があまりにも足りない。「困ったらご相談ください」という程度しか伝えていないことが多く、はなはだ不親切だ。
2009年度の適用件数を聞くと、京都では京都市122件、宇治市3件、亀岡市ゼロ、南丹市ゼロ(10年度まで要綱なし)といった状況。大阪では大阪市5件、堺市2件、東大阪市7513件、八尾市2835件、門真市ゼロ(現在も要綱なし)という具合で、極端な差がある。
原因は広報や窓口対応の違いのほか、適用基準(収入額)の差、国保料の滞納なしを適用の要件にするかどうか、治療見込み期間を3カ月に限定するかどうかなどによる。東大阪市で件数が多いのは長年の住民の運動によって、公的年金で生計を維持する世帯も基準(前年所得が単身で125万円、1人増えるごとに33万円加算)以下なら通常6カ月間、対象にしているからだ。
厚労省は昨年9月の通知で、国保の場合の減免基準の目安を技術的助言としてようやく示した。収入が生活保護基準以下で預貯金が生保基準の3カ月以下の世帯を対象とし、入院で標準3カ月まで適用する。この範囲なら減免額の半分の調整交付金を保険者に出す。
目安がないよりはましだが、この基準はやや厳しすぎる。減免がないと高額療養費制度による上限月額は70歳未満の低所得世帯(住民税非課税、3割負担)で3万5400円だから、けっこう重い負担になる。
生活保護があればよいというものではなく、むしろ医療費負担による生活保護の増加を防ぐためにも、広めに減免を適用したほうがよい。
そして低所得層の自己負担をどう設定すべきか、一律に3割負担でよいのかも含めて、根本から考えていこう。